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同じ日の日記

坂の途中の水仙の花、ずっとまえに見た花/小林エリカ

2022年3月11日(金)の日記

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2022年3月は、2022年3日11日(金)の日記を集めました。戦争や震災などの災厄を題材にした作品を描き続け、クリエイティブユニットkvinaとしても活動する、作家・マンガ家の小林エリカさんの日記です。

2022年3月11日(金)晴天

7時半起床。朝、トースト、コーヒー、チーズオムレツ。
調子にのってパンを2枚も食べた。
娘は朝からYouTubeでブリッピーのチャンネルを観ている。ブリッピーはトナカイの牧場へ出かけていっていた。

8時半、娘を園へ送る。
私はそのまま、埼玉にある「原爆の図 丸木美術館」へ向かうことにする。
このところ、友人や知人のうちの何人かから美術館をすすめられていたし、学芸員の岡村さんもご紹介いただいた。思えば私は教科書でしか『原爆の図』を観たことがない。李晶玉さんの『SIMULATED WINDOW』展がはじまるとあったので、その日にあわせて行くことにした。
山手線で池袋へ、そこから東武東上線に乗り換え森林公園へ。
母からウクライナ連帯のために黄色とブルーのリボンを送ったというメッセージ。
母や姉たちとひととおりウクライナについてメッセージのやりとり。ひとまず家族で連帯。
同時進行で、卒園式後に園のお友だちと遊ぶ約束の調整メッセージのやりとり。
その後、原稿チェック。
川越へ向かう人たちが大勢乗っていて、車内に聞こえるのは英語ばかりで旅行へ来たみたいな気持ちになる。
森林公園から歩こうかと思ったが、さすがに遠そうなのでタクシーに乗って美術館へ。
美術館の前庭には広々とした土手があり、梅の花がきれいに咲いていた。気持ちが良い。
李晶玉さんの展示と、丸木夫妻の『原爆の図』を含む一連の作品を観る。
学芸員の岡村さんにお会いして、美術館のなりたちや、どうやってこの美術館が支えられてきているかとか、お話を聞いた。震災後すぐにChim↑Pomがそこで展示したときのお話とかも。ひたすら淡々と熱意あふれる岡村さんの姿勢に打たれる。

タクシーで駅へ戻り、東武東上線で池袋へ。
空腹。
震災十一年目。Mi amas TOHOKUを一緒にやっているSHOE PRESsさんから今年も義援金報告のメッセージが届く。kvinaのメンバーとは以前みんなで訪れた陸前高田の熊谷研さんの畑に咲いていた花の写真を共有し合った。あの花を見てから、もう9年の時が経っている。

14時表参道駅着。
とにかくお腹が減っていて、希須林の担々麺がどうしても食べたかった。しかし、店はもう閉まってしまっていたので、隣のタイ料理店「ティーヌン」でトムヤムヌードル。ランチバイキングがあって、グリーンカレーも食べた。
隣に座って食事をしていた大学生とおぼしき女の子たちがお喋りをしている。
iPhoneのカメラのシャッター音が鳴るのは日本だけで、しかもそれは盗撮が多いからで、日本マジ治安悪いよね、てか陰湿。
確かに、森林公園へ向かう折、東武東上線のホームに上がる階段一段おきに「盗撮に注意 後ろに気をつけて」「盗撮は犯罪です」といった警告文が貼られていたなあ、と実感。
園の近くへ行き、スターバックスコーヒーで仕事。
スターバックスコーヒーショートサイズ。シナモンロールを食べたかったがなかった。
原稿のゲラを返す。
まだお迎えまで少しだけ時間があったので、東京宝塚劇場と第二次世界大戦中日本がつくっていた風船爆弾についての調べ物。
テラス席に座っていたら次第に底冷えしてくる。しかし店内は満席。
春だけれどまだ寒い。
きのうの3月10日は、東京大空襲の日でもある。
その同じ日、アメリカ、ワシントン州のハンフォードサイト付近に日本から放たれた風船爆弾が落下し停電を引き起こしていた。停電したのは、マンハッタン計画という原子爆弾開発計画のもと、プルトニウムを精製していた場所である。ちなみにそのプルトニウムが、やがて世界ではじめての原爆実験トリニティテストと、長崎に投下された原爆コアに使われることになる。かの停電により、原子炉が完全にもとの状態に戻るまでには3日を要したとか。

18時、園に娘をお迎え。
帰り道、いつも通り掛かる坂の途中に水仙の花が咲いていた。
夕食、豚肉とニラ玉のうどん。
娘はそろばんアプリの「そろタッチ」をやる。
金曜日夜はムービーデーと決めていて、一緒に映画を観ることにしている。
ディズニー&ピクサー最新作『私ときどきレッサーパンダ』が今日から配信というので鑑賞。
風呂と歯磨き。

22時、娘就寝。
私はキッチンでひとり酒(ジン)を飲みながら、ネットを見る。
ウクライナの東部ドニプロで空爆があり少なくとも1人が死亡とのこと。
ウクライナからは10日だけで4万人が避難したが、東部マリウポリは完全に封鎖されているそう。
チェルノブイリ原子力発電所とは情報伝達手段が全て失われたとか。

小林エリカ

1978年東京生まれ。作家・マンガ家。
現在、東京在住。著書は小説『トリニティ、トリニティ、トリニティ』『マダム・キュリーと朝食を』(共に集英社)『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)。“放射能”の科学史を巡るコミック『光の子ども1,2,3』、アンネ・フランクと実父の日記をモチーフにした『親愛なるキティーたちへ』(共にリトルモア)など。はじめての絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)も刊行。他には訳書『アンネのこと、すべて』アンネ・フランク・ハウス編、日本語訳監修石岡史子(ポプラ社)など。国内外での展覧会も多数行う。

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グループ展『愛と平和をまもるモノ(仮)』

参加アーティスト:中原正夫、奈良美智、ミヤギフトシ、村瀬恭子、志賀理江子、小林エリカ、橋爪悠也、東松照明
場所:Yutaka Kikutake Gallery
日時:4月23日(土)〜5月28日(土)12:00〜19:00

Yutaka Kikutake Gallery | Group Exhibition_愛と平和をまもるモノ(仮)

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