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同じ日の日記

生きているだけでサバゲー状態なんだから/中里虎鉄

2022年1月1日(土)の同じ日の日記

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。me and youのはじまりの日記は、2022年1日1日(土)。フォトグラファー、エディター、アーティストなど多岐に渡って表現活動をしている中里虎鉄さんの日記です。

0:00
お正月は“家族”を意識させられるから苦手だ。SNSを開けば豪勢な実家のおせち自慢に、楽しく過ごすリア充投稿で溢れ、“家族”と距離を置いていたい(仲が悪いわけでもないが)僕は、そんなみんなの姿を見るのが正直苦しかったりする。捻くれているのかな、僻んでいるのかなと思い、自分に優しくできないこの時間がとても悲しい。そんな感情から逃げるため、毎年新宿二丁目のクラブに友達とナイトアウトしに行くのが恒例だったが、いつも“家族”と過ごしていないことに対し罪悪感を抱き、心地よく年明けを迎えられないから、今年は友達と2人でしっぽりとジャニーズカウントダウンを見ながら年越しをしてみる。
ジャニーズを全くと言っていいほど通ってこなかったが、なにわ男子が可愛すぎる。KAT-TUNのレジェンド感、中学時代に大人気だったHey! Say! JUMPがアラサーだというのにみんな未だに20代前半のような若々しさを保っていること、ジャニーズすごいな。輝いてるな。きっとナイトアウトしていたら気付けなかっただろうな。2022年、ジャニーズに沼る気配を感じてる。

2:11
友達が先に寝てしまった。お酒を飲むと眠れなくなってしまう僕はここから何をしたら良いのだろう。年越しはずっと電車が通っていると思っていたが、京王線は通常運行らしく、23:48で最終電車は出てしまったらしい。2時間前じゃないか。ここは百合ヶ丘だから、今からタクシーで友達のいる新宿・渋谷方面に行くこともできず、遊びに出かけていない友達はみんな既に寝てしまっている。今からどう罪悪感や孤独感から逃げようか。どう過ごしたらいつものように何事もなく今日という日を過ごすことができるのだろう。

3:04

寝てしまった方がいい、眠れないと思っていても、ベッドに入って1時間ほど目を瞑っていれば朝が来るだろう。ソファで寝てしまった友達と、その近くで遊んでほしそうに友達を見つめる猫。エアコンと換気扇の音が僕をより静寂の中へと引き込む。
全然関係ないが、今話したい人がひとりいる。“好きな人”。こんな言葉を今も自然と使ってしまうなんて少し恥ずかしいが、僕にとっては久しぶりの存在。しばらく好きな人と思える人もいなかったが、それなりに楽しく過ごしていた。むしろ、好きな人や恋人がいないときの自分はとてものびのびとしていて好きだ。そんな自分を守るためなのか、単にいい人と出会えなかったのか、前の恋で負った傷が癒えていなかったのか、理由はきっとひとつだけじゃないだろうけど、しばらく恋というものと距離があった。そんな中出会ったその人は、初めて会ったときに心地よい会話のリズムや、目の前にいる人を丁寧に見つめる姿が魅力的だと思った。その人といる時間は“自由”を感じることができる。僕の中で自由とは「恐怖を感じずに生きられる」ということ。そう思わせてくれるその人は僕にとってとても大切な存在だ。ただその人との関係が発展するわけでもなく、時々連絡が来たり、したりするくらいできっとその人は僕のことをなんとも思っていないのだろうな。あー、こんなティーンエイジャーみたいなことを正月早々考えているなんて、なんだか恥ずかしいね。
お腹がすいてきたな。明日のお昼、何食べようかな。

4:00
寝ようとすると頭の中で脈略なく次々といろんなことを考えてしまって、眠れなくなってしまうんだ。眠りにつく直前だけはいつもの夜と同じ。
 
 
 

11:28

元旦なんて早く終わってしまえと思っている僕だから、寝れるだけ寝てやろうと思っていたが、友達の目覚ましのスヌーズが繰り返し鳴っている。いくら抵抗したって無駄か。
ブランケットにくるまりながらテレビをつけると、『孤独のグルメ』の一挙放送がやっている。お正月特番のバラエティ番組は好きじゃないから、こういうのはありがたい。寝る前からずっとお腹が空いているから、追い打ちをかけられている気分だけど。松重豊演じる井之頭五郎が今訪れているお店は国分寺にある中華料理屋「Sincerity(しんせらてぃ)」。お酒を飲んだ次の日に何を食べたくなるかって人それぞれだと思うけど、僕は本格中華かスパイスカレーが食べたくなる。お酒で胃腸が荒れてるから、あっさりめで。って気持ちもわかるけど、二日酔い気味の時は特に脳が正しく動かないのか、味の濃いものを求めてしまう。その中で五郎さんが中華料理を1人でたらふく食べてる姿なんて見てしまったら、昨夜の問いの答えなんてすぐに出る。2022年最初のご飯は中華にしよう。
元旦だからおせち料理やお雑煮、せめて和食を食べないとかな。って思ったりもしたけど、今の僕のお腹と口と脳は中華を求めているんだから、素直に従ったほうがいい。早速シャワーを浴びて近くの中華料理屋へ向かおう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
13:30

百合ヶ丘に来ることが初めてだったけど、ここはとても坂が多い。空き家もちらほらあるが、同じ形をした家が何十件も並んでいるエリアもある。隣の家と同じ見た目をした家に住みたいと思う人の気持ちがまったくわからない。酔っ払ってたら、間違えてお隣さんの家に入ってしまいそうだし、そもそも景色として成り立っていないんじゃないかとさえ思う。
数年前にマッチングアプリで出会って数回ご飯をした人が「良い建築はその土地にもともと存在していたかのように感じられる、土地と建物との境目がないもの」と話していたことを思い出す。その人の言葉を借りるなら、目の前に建っているクッキーカッターハウスの大群とこの土地との間には境目が存在し、はっきりと分離しているように僕には感じる。良い悪いの話ではないが、悲しいなと思うし、残念だなと思う。
なんとか惹かれる景色を探そうと歩いている間に目的の中華料理屋に到着してしまった。百合ヶ丘の魅力探しはまた次来る理由に。

15:00
僕はそこまで大食いではないのだけど、食べることが大好きだし、可能なら大食いYouTuberのようにテーブルいっぱいに料理を並べてたらふく食べたいと思っている。その思いが強すぎてか、毎度自分がどのくらい食べれるのかわからなくなってたくさん注文してしまう。これは僕の悪い癖だ。今回も青椒肉絲ラーメン、五目チャーハン、餃子、回鍋肉を注文し、元旦サービスでフカヒレスープと杏仁豆腐をいただいた。前日にお酒をそこそこ飲んで胃が荒れてるだろうに、その中で重めの料理ばかり頼んでしまった。だけどお腹いっぱいになったあとに吸うタバコが最高なのも知っている。もはやお腹いっぱいの中タバコを吸うまでが中華だと思っている(これは韓国料理を食べるときも言っているが)。
お店が中休みに入るため、店員さんが賄いを食べ始めている。僕らも急いで大量の中華を掻き込んで店を出た。そこで重大なミスに気付いた。タバコを忘れた。最悪だ。ここまでが中華だって言っていたのに、締めを楽しむことができない。まあ健康的な元旦と言い聞かせて我慢するしかないか。

15:30

せっかく外にいるのだから、お正月らしいこともしてみようと思う。初詣に行こう。そんなラフな気持ちで近くの神社に行ってみると、さすが元旦。長蛇の列ができていた。これが嫌で今まで元旦に初詣に行ったことがなかったのだけど、みんなはどんな心意気でここに来ているのだろう。
僕の前に2歳くらいの子どもがいる。その子はこんなに寒いのに上着を着ることを拒み、冷たい地面に敷き詰められた砂利や落ち葉を拾い遊んでいる。それを見た僕の友達が「子どもって寒さの感覚鈍ってるのかな」と聞いてきた。
中学生の頃に冬休み前の大掃除で教室を水浸しにするイタズラをしたことがあったが、あの時は寒いとかいう基準値などなく、遊び心と反抗心だけが行動の基準値になっていたように思う。それを踏まえても、間違いなく子どもの寒さの感覚は鈍っているだろうなと思いながら、つい言葉に出す上で瞬発的に他者への配慮が出てしまう。「人によるっしょ」。
 
 
 
 
 
16:40

初日の出は見れなかったけど、長蛇の列を並び終えて参拝も終わり、ギリギリ富士山の後ろへ沈む初日の入りは見れた。僕は12月27日まで宮城県気仙沼市に短期移住していて、今年の4月から本格的に東京と気仙沼で二拠点を始めようと思っている。気仙沼で住んでいる家の目の前には山があり、今の季節は15:30を過ぎると太陽が山に隠れて、夕陽を見る前に街はあっという間に暗くなってしまう。夕方という昼から夜への渡し舟を失った僕は、岸辺で一人取り残されたように悲しくて、太陽が山へと沈んでいく姿をよく部屋からじっと眺めていた。しかしその時間帯の太陽は夕陽ほど直視できる状態ではない。朝や夕方の太陽の光は、空気の層を斜めから差し込むから、大気の中を通る距離がお昼と比べて10倍近く長くなる。だから直視してもさほど問題はないらしいが、反対に昼に見る太陽は、大気の中を通る距離が近すぎて目に有毒らしい。だから直視し続けることができないという。近くにあるものを、近くにいる人を見続けたい、愛し続けたいと思う気持ちが強いあまり、有毒な関係になってしまうこと、あったな。適切な距離感って本当に難しい。今見ている1000kmの大気層を超えて届いた夕陽も綺麗だけど、気仙沼の部屋から目が痛くなりながら見つめた光も愛おしかった。そろそろ寒くなってきたし家へ帰ろう。

20:00

家についてこたつに入ると強い眠気に襲われてうたた寝してしまった。中華をたらふく食べて、ほぼ山登りみたいな坂を登って初詣に行ったのだからそりゃ眠くなるか。
ただ何かおかしい。胃もたれか、連日お酒を飲んでいたせいか、具合があまり良くない。きっと暴飲暴食が理由だろうから、今年の抱負は「酒は嗜む程度に、飯は八分目」にしよう。
2020年にHIVに感染してから、健康というものが脳の片隅に居座るようになった。つまり実践は何もできていないのだけど、新しく保険に加入することも難しかったり、フリーランスで働いていると健康診断も自分で申し込んで行かないといけないし、自治体によっては年齢制限があり、20代だと受けれないところもある(僕が住んでいる区もそうだ)。
僕が一番健康に対してハードルを感じているのは、ノンバイナリーを自認する僕は病院に行った時に問診票の記入や、医者や看護師との会話で“男性患者”として振り分けられることを我慢しないといけないと自分もどこかで思ってしまうからである。これはノンバイナリー含む多くのトランスジェンダーが直面している問題。海外では最近、医療の現場で自然分泌されるホルモンが関わっている話をする場面において、AMAB/AFAB(出生時に男性と割り当てられること/出生時に女性と割り当てられること)という言葉を使用するようになっている。この言葉は相手のジェンダーやアイデンティティを特定するものではないので使い方は難しいが、心身に何か不調があるタイミングで、シスジェンダーであることを前提とされたシステムやコミュニケーションをされることは非常にしんどいから、このくらいの配慮はしてくれ、、と思う。
健康や医療というものには誰もがハードルなくアクセスできるべきではないのか。少し体調に違和を感じただけで、ここまで考えなくてはいけないなんて、2022年、初っ端からサバイブしていかなくてはいけないみたい。
日頃サバイブしているみんな、ひとりで闘わなくていいように、時々お茶しながら一緒に社会の愚痴を本気で怒ったり、馬鹿にして笑ったりしようね。それにいつだって休憩したり、やめたっていいってたくさん自分に伝えてあげよう。じゃないと僕らが闘うことは当たり前のことかのように思われて自分自身にもその責任を課してしまうからね。生きているだけでサバゲー状態なんだから、チーム戦でいっぱい回復アイテムゲットしようね。

中里虎鉄

フォトグラファー、エディター、アーティストと肩書きにとらわれず多岐に渡って表現活動をしている。ノンバイナリーであることをオープンに、ジェンダーやセクシュアリティについての考えや経験を発信している。Creative Studio REINGから刊行された雑誌『IWAKAN』の編集も行う。2021年より東京と宮城県気仙沼市で2拠点生活を始め、包括的なジェンダー平等を目指した地域づくりに取り組んでいる。

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『IWAKAN Volume 03 特集 政自』

発行:REING
価格:¥1,650(税込)
発売日:2021年9月17日(金)

【IWAKAN】 Volume 03|特集 政自

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