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同じ日の日記

震えて揺れて透けてゆく私たち/齋藤陽道

2022年1月1日(土)の同じ日の日記

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。
me and youのはじまりの日記は、2022年1日1日(土)。写真家の齋藤陽道さんに書いていただきました。

2022/01/01(土)晴れ
みんなのんびりと起きる。9時起き。ぐっと寒い。台所の片付け。納豆ご飯と焼き芋の朝ごはん。今年初の読書は『ベルセルク41巻』、2年ぶりの最新巻であり、三浦建太郎さんが急逝されたので最終巻でもある。
最終回になってしまった『朝露の涙』をゆっくり、ゆっくり読む。一コマ一コマの凄まじさよ。ラストここで終わるのかという衝撃。因縁めいたものすら感じてしまう。けれども……やっぱり……、もっと早く、はやく、話を進めてほしかった……。
ぼくも今やっている作品たち、ちゃんと発表してやっていかないとまずい。ひとつひとつをしっかりと。のんびりしていたらいつ死ぬかわからない。今年は、会社設立と事務所とアトリエを借りるという大きな動きがあるので、きっちりやっていかないと。

まなみ、13時になっても寝ている。きのう何時に寝たんだろ。14時になってやっと起きてきたので、準備して、水前寺成趣園にゆく。わ、すごい人。屋台もある。マスク人混み。初めて見る光景。
行列には並ばず、ゆるゆる散策。商売繁盛をいのって、熊手を買う。千円。まなみ、レアな寅年らしいので、絵馬も買う。ゲンは担ぐぜ、えんやらこっこ。
おみくじ。大吉。「する事なすこと幸の種となって、心配事なく嬉しい運ですからわき目ふらず一心に自分の仕事大事とはげみなさい。少しでも我儘の気を起して色や酒に溺れるな」ハイッ。
気になっているのは、「商売・利益あり進んで吉」「転居・差支えなし 上吉」よし〜。

準備したおせち。ぶたしゃぶ。カニしゃぶ。まんぷくまんぷく。いいね。雲ひとつない晴天。
熊本に引っ越してきてもう1年がたつ。はやい。いろいろとやりたいことはありつつ、ちょっとうまく時間の整理ができてなく、ごったがえしていたのが去年なので、今年はもうちょい楽しく、楽に、なめらかにやっていこう。夕焼けと宇宙と連なる夜のせめぎあうよいオウマガドキ。焼酎お湯割りちみりちみり。

元旦というか、年の切り替わる節目ということもあり、今日はことあるごとに「こども3人目どうしようかね」という話になる。子どもは、素直に欲しいとおもう。けれども、もしかしたら私立に通うかもということもあり、お金のことで二の足を踏んで止まってしまっている。他にも考えてしまうことは無数にある。この国で、この時代で、このコロナの状況下で、本当に、いいのか? ……。……。
長男と次男の二人でいいよね……というところで一旦納得したつもりだったけど、子どもを迎えたいというきもちを止めているのが、お金だということに言いようのない違和感がつのっていることも確か。たかがお金なんかに止められているのか?と思うと、バカバカしくもなってくる。されど、地獄の沙汰も金次第。お金は大事。じぶんの稼げる範囲、量を、見つめ直さなきゃな。

でもそうだった、最初は、子どもはひとりでいいと思っていた。でも、いつきさんを迎えてみて、ぼくらの生活は、明るくなった。その明るさが、二人目を決意させた。そうして、ほとりさんを迎えて、また、思ってもないところから、生活は明るくなった。
その明るさは、ただただ眩しいだけではない。蛍光灯をいくつも誂えるというような単純な眩しさではない。じっとりとさみしく鈍い不安なくらやみをくぐりぬけた先に広がるたったひとつの光源としての明るさ。それがぼくらの生活を煌煌と照らしてくれている。
明るさの深みが増していった。その明るさが、ぼくらをよりめぐらせてくれた。彼らへの感謝は深い。徹底して返していきたいという想いや、たぶん新しく仕事もやってくるだろうという予感もある。「ぼくなんかが子どもをつくってはいけない」と思っていたかつての自分に、見せたいとも思う。彼らがもたらす光を思うだけで、吹き上がる根性がある。
だから、だから、3人目も、と思うようになったのだ。

『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』ウスビ・サコさんの本を読みながら、しびれっぱなし。
「マリでは同じコミュニティの人たちが、常に一緒に生きるという意識を共有しています。ですから、なにか問題が起こったら、自然とお互いに助け合いながら解決を図ります」
ああ、そうか。不安なのは、お金じゃない。子どもが増えたとき、必要なものは、人のちからで。その、頼れるちからの相手や場所が乏しいことに、不安を感じているんだよね。

今年は、事務所とアトリエ、りんご売りの場をもつことになる。出費は痛いほどに、どかんと増えるんだけど、その代わりに、場が増える。人もお金も流れて動く場にしたいな。しなきゃな。
ともだちのタケヒロくんからもらった、リアルなうんこのおもちゃに興じる。みんなでバカ笑い。んははははははとおもいっきり笑ってみると、ほんとにおもしろくなってきて、うはははっはっはとなってきて涙がにじんできて、本気の笑いがみんなにも感染って、おひょひょひょひょ、うららっらららら、ぺよぺよぺよぺよと笑いがパンデミック。初笑いはうんこでした。

夜、『うまれるものがたり』(繁延あづさ)を読む。3人目を考えているので、今だなと思ったのだけど、予想以上に、今読むべしもので、沁みた。
「すばるくんのものがたり」で、バチンとなる。
「お産が進み、いよいよ赤ちゃんの頭が出るというとき、助産師さんが『出てくるよ!』と、すばるくんに声をかけた。彼は一瞬なんのことかわからない様子であたりを見回したあと、そうかと気づいたようにお母さんのお尻側に走り出た。そして、彼はまさに弟がうまれる瞬間を見た。途端に、彼は泣き出した。火がついたように泣いた。叫んでいるようでもあった。お父さんが歓声をあげて赤ちゃんを見ているときも、お母さんが急ぐように赤ちゃんを胸に乗せたときも、助産師さんがねぎらいの声をかけたときも、ずっと泣いていた。誰もが赤ちゃんがうまれたことに安堵し、笑顔で喜ぶ中で、彼ひとりは泣いていた。彼はお父さんの方を向いて泣き、お母さんの方を向いて泣いていた。」
恐怖なのか。畏怖なのか。わけのわからないものを迎える恐れと喜びが混沌となった感情を想像すると、たまんない。子どもはみなこの混沌の感情を抱えている。だからぼくは子どもを、子どもと侮りたくないのだ。子どもという存在を、ぼくは心から敬う。
歳だなあ。落涙。落ちる涙。フォーリングティア。

そういえば、今日は「あけましておめでとう」って言っていない。言ったか? 言ったな。言ってた。でも、ただ惰性でなんとなく言っていただけで、実感としては、「おめでとう」の気持ちがまったくこもらない。
去年は悲しいことがたくさんあった。親しい人がいなくなったり。つい数日前に、海老原宏美さんが亡くなられたし。ほかにも。うん。彼・彼女らの存在と、過ごした時間を想いながら、「あけましたね。みんなで今年もよろしくやってゆきましょう」という感じで、今年もレッツゴー。震えて揺れて透けてゆく私たち、ともに粛々と、淡々と、苛烈に。

齋藤陽道

1983年、東京都生まれ。写真家。都立石神井ろう学校卒業。2020年から熊本県在住。陽ノ道として障害者プロレス団体「ドッグレッグス」所属。2010年、写真新世紀優秀賞(佐内正史選)。2013年、ワタリウム美術館にて新鋭写真家として異例の大型個展を開催。2014年、日本写真協会新人賞受賞。
写真集に『感動』、続編の『感動、』(赤々舎)、『宝箱』(ぴあ)。著書に『写訳春と修羅』『それでも それでも それでも』(ナナロク社)、『異なり記念日』(医学書院・シリーズケアをひらく、第73回毎日出版文化賞企画部門受賞)、『声めぐり』(晶文社)がある。

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『せかいはことば』

著:齋藤陽道
発行:ナナロク社
発売日:2022年春を予定

「今年の春ごろ、手話のある生活を描いたまんが日記『せかいはことば』が、ナナロク社より刊行されます。この世界には、育児書は無数にあれども、手話のある生活を伝える育児書は一冊もありませんでした。そんな現状を打破すべくの一冊ですので、みなさまぜひぜひ応援くださいませ」(齋藤陽道)

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