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創作・論考

あのとき選ばなかった絵を、今発表すること kaho iwaya×石田真澄の共同作品

これまで描いた未発表の天使たちの絵に、光を当て直す

たったひとつの答えをすぐに導き出すのではなく、それぞれの解釈や未知の考え方に、時間をかけて出会えるように。そういった場所になることを願い、さまざまな方とつくる「創作や論考」をお届けします。

「わたし」と「あなた」は、それぞれに違うから、出会ったことで感情が動いたり、考えが変化したり、はじまったり、終わったり、それでもなにかが続いていったりもします。me and youでは、その人自身の個人的な想いや考えをなかったことにせず、そんな「わたし」と「あなた」だからこそ生まれるものを見つめながら、ともに生きるこの場所のかたちを探っていきたいと考え、「誰かと誰かの出会い」を大切にした作品づくりをおこなっていきます。

初回は、日々を励ます、お守りのようなタトゥーシールをつくるopnnerのkaho iwayaさんと、さまざまな光をとらえる写真家の石田真澄さんが共同制作。二人がたどり着いたアイデアは、「kahoさんがたくさん描いてきた未発表の天使の絵に、石田さんが今光をあてること」。過去のある時点では選ばれなかったものたちに、時間をこえて出会い直すことことで、なにが見えてくるでしょう? 石田真澄さんの撮り下ろし写真のなかに、あなたにとってのお気に入りの天使を見つけてみてくださいね。

「間」というか、余白も十分にある打ち合わせ。(石田)

―今回お二人にメインビジュアルを制作いただくにあたって、まず打ち合わせでじっくりと話をしたんですよね。me and youが、メディアとコミュニティをどういう場所にしていきたいかお話して、お二人にも個人的なエピソードや思いを聞かせてもらって。

石田:打ち合わせ、すごくよかったですよね。どこでどう撮るとか、スケジュールの詳細とかじゃなくて、意思疎通をして団結した感じ。「kahoさんがこれまでに描いた未発表の天使たちを私が撮影する」という大枠はそこで決まったけれど、「間」というか、余白も十分にあったなって。

kaho:そうそう。「この天使を撮るぞ!」って感じじゃなく、とりあえず今までに描いた天使を集めてみようか〜、みたいな。

―kahoさんが「天使集めをする」と言っていて、いい言葉だなあと思いました。

Kaho:打ち合わせがすごく面白かったから、あの後日記を書きました。いいなぁ、覚えておこうと思った日のことは、日記に残しているんです。

つくったものがどれだけ大切に扱ってもらえるか。(kaho)

―kahoさんが新作を描いて、真澄さんがそれを撮影するというアイデアもありえたと思います。ただ、話をするなかで、「過程や曖昧さ」や「短期的ではなく、長い目で時間をとらえる」ことを大切にしたい気持ちが三者ともにあるようだと、あの場にいた一人ひとりが気づいていきましたよね。過去に描いたものに改めて光を当てるという今回の方法について、いかがでしたか?

kaho:つくるももののまわりの速度が速すぎると悲しくなることがあって、最近は時間をかける、育てることに重きを置いています。なので、今回は新しく完成したものを発表するより、今生み出している途中のもの、今までつくってきたものに重ねられた時間を写すというほうが合っていると思いました。絵たちにとってもやさしいなって。

―天使を集めながら、過去を振り返る機会にもなったと言われていましたね。

kaho:絵を見ると描いたときの記憶や思い出が蘇ってくるので、もうね……エモかった! とにかく胸がいっぱいになったし、いろいろなものを描いてきたんだなぁという心強さとか、力強さみたいなものをすごく感じました。

石田:私も今回のkahoさんのように、過去に撮影した作品を提供することがあるので、そういったきっかけがあればこれまでの写真を見返します。仕事の他にも、例えば大掃除のときとか、昔撮った友達の写真をふと見つけたときとかは、やっぱり好きだからずっと見ちゃう。

―どうしても発表するとなると、どれかを選ばなければならないけれど、選ばれたものの背景には、無数の練習や試作が積み重なって「ある」んですよね。今回お二人がつくったのは、そのことを思い出すような作品だなと思います。

石田:今回の撮影場所はkahoさんのアトリエだったので、当日会って、どういう場所で描くのか見て、その場で全て合わせようと思っていました。普段人を撮るときは、場所も服もある程度決めておくんですけど、今回はいつも通りのムードのなかで撮りたかったので、何も意識を持っていきませんでした。その場で合わせていく今回のような撮影も好きだなって、改めて感じましたね。

こうやって人と人はまた出会うのかって思いました。(kaho)

―もともとkahoさんが「石田さんの光の表現に惹かれる」とおっしゃっていて。

kaho:(石田)真澄さんの写真には光というか、光の道があるように感じていたんですけど、その場ですでに存在している光を写し出すことと、物理法則によって生み出す光、そのどちらもが魔法のようで面白い発見でした。

石田:今回は、普段通りの物が並ぶkahoさんのデスクに、水の入ったグラスを1個だけ追加させてもらいました。机の上に置いた水の揺らぎとか、ガラスの反射から生まれる光とかがすごく好きで、物撮りの時は結構やりがち。家やカフェにいる時も、ガラス食器の光をつい見ちゃいます。

―光が差すのを待ったり、そこに人の手を加えたりして、よい偶然を待つための準備をしているように感じました。天使に光が差したとき、わあ、と歓声があがりましたが、そもそもkahoさんは、どうして天使たちを描き続けているのですか?

kaho:天使は、描いていると安心するんです。ノートの端っこに描いておいて、ふと視界に入ると、いるなぁと思ってちょっと安心する。opnnerを始めた頃から描き続けているので、かなりの人数を描いています(笑)。今回もめちゃくちゃ天使を集めたけど、みんな未発表の天使たちでした。

―いろいろな表情の天使がいますが、どんな子が特にお気に入りですか?

kaho:すごく笑っている顔の子はあまり描いてなくて、それは曖昧な表情のほうが見ていて安心できるからかもしれません。

あのとき選ばなかった絵を、今発表すること kaho iwaya×石田真澄の共同作品

いろいろな表情の天使たち(最近は悪魔を描くことにもはまっているそう。Kahoさんいわく“悪魔のほうがいろんなことをさせたくなる“とのこと)

石田:私のなかで、天使といえば『チャームエンジェル』(もりちかこ/小学館)という少女漫画。小学生の頃に大好きだった漫画で、それをきっかけに天使が好きになりました(笑)。最近また、小学生ぶりにいろいろ読んでいるんですよ。この前読んでよかったのが、『ひらやすみ』(真造圭伍/小学館)って漫画。阿佐ヶ谷に住むフリーターの青年と美大生の話で、特に何も起こらないんだけど、展開も絵柄も穏やかで心地いいんです。

kaho:私は押見修造先生が好きで、特に『惡の華』(講談社)が大好き。あと、この前妹が『進撃の巨人』(諫山創/講談社)を家に全巻持ってきてくれて、自分でもびっくりするぐらい泣きました。どちらかというと、青年漫画や少年漫画の方がよく読みますね。

―漫画の話になっていくのすごくいいですね……。「話がずれていくこと」もme and youの新しい場所では大切にしていきたいなと思っているんです。

石田:kahoさんとは過去に一度だけ挨拶をしたことがあったんですが、本当に一瞬だったので、「もうちょっと喋りたかったな」って心残りがあったんです。だから、今回一緒に作品をつくれてとても楽しかったし、kahoさんの大切な天使たちをたくさん見せてもらえて嬉しかったです。

kaho:私も、こうやって人と人はもう一度出会うのかって思いました。時間の流れを感じるし、お互いにいろいろな経験を経てまた会えたのが嬉しい。なんだかすごくいい1年のスタートだなって、豊かな気持ちです。

石田真澄

1998年生まれ。
2017年5月、自身初の個展「GINGER ALE」を開催。
2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。2019年8月、2冊目の作品集「everything with flow」を同社より刊行。雑誌や広告などで活動。

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kaho iwaya

ポートランドのタトゥー文化に影響をうけ、日本でのタトゥー文化を拓くため2015年に〈opnner〉を立ち上げる
「タトゥーというのは体がかわろうと人生を共存できる最高の励ましであって、永遠のジュエリーである」というコンセプトの下
タトゥーへの見方を問い直す、そんな入り口になれるようにopnnerをつづけている。
タトゥーの図案を担当する他、雑誌などの挿絵、文筆家としても活動している(『渡り鳥』、『すごく近い』等)

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『夏帆 写真集 おととい』

撮影:石田真澄
発売日:4月9日(土)
価格:3,520円(税込)
発行:SDP
『おとととい』

kaho iwaya『tiny luck』

日時:2022年2月20日(日)〜3月15日(火)
会場:fruit hotel taipei
fruit hotel taipei

「国外で初めての展示を開催。
台湾のアーティストとのコラボや、オリジナルでtattooなど制作しています。
tattooは、2月20日(日)21:00からopnner のonlinestoreでも販売が開始されます。
そのタイミングでme and youさんきっかけで作り始めた天使tattooも発表予定です」(kaho iwaya)

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