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自分を愛する以前に、ただ生きるために/絶対に終電を逃さない女

虚弱体質ゆえ、生きるために生活を整える。嫌いだった生活が好きになって

病気じゃないけど、体力がない。著書『虚弱に生きる』で、虚弱体質として生きる日々について綴った、絶対に終電を逃さない女さん。これまでまとまった言葉で表される機会が多くなかった「虚弱体質」について、生活の実感とともにくっきりと捉えた文章は、少なくない人が抱えていた悩みに光を照らすきっかけになりました。そんな絶対に終電を逃さない女さんが、生活と愛について考えていることとは。

私はいわゆる丁寧な暮らしやセルフケアをしているほうだと思うが、自分を大事にするとか、自分を愛するとかは目的にしていないし、意味もよくわかっていない。
私がそういう生き方をし始めたのは、自分を大事にとか愛するとか以前に、ただ生きるためだった。21歳頃から体力がなさすぎて生活が回らず、25歳で頚椎椎間板ヘルニアになり、26歳で筋力不足により膝を痛めて歩くことすらできなくなった。根本的な原因はわからなかったが、医者や整体師に運動や入浴をしろと言われた。私はとにかく今ある痛みから逃れるため、歩いて移動するため、普通の生活をするために、毎日自炊をし、筋トレをし、湯船に浸かるようになった。そうしなければ生きられなかった。規則正しい生活リズムを守り、疲れる前に休み、心身の変化を見つめ続ける。そうしてようやく、なんとか1日3時間くらい働けて、散歩ができて、死にたくならない状態でいられるようになった。

ふとした瞬間に、この生活を愛している、と思う。ただ人並みの健康が欲しかっただけで、別にこういう生活をしたかったわけじゃないのに、窮屈な生活でもあるはずなのに、泉が湧き出るように思う瞬間があるのだ。節約と運動のために自転車で遠くのスーパーに向かう時。スポーツセンターからの帰り道に真っ赤なチューリップが咲いている時。常備菜のピクルスを作って冷蔵庫に入れる時。生活そのものが好きだとすら思う。この生活をしている自分も好きだと思う。
雑に暮らしていた頃は、生活が嫌いだった。生活のすべてが面倒で、自炊はほとんどしなかったし、風呂はシャワーだけで済ませていたどころか2日くらい浴びないことも日常茶飯事だったし、部屋の床には足の踏み場という概念すらもなくて散らばったレジ袋や公共料金の支払書を平気で踏んで移動していた。生活をちゃんとしたいなんて、思ったことがなかった。興味がなかったし、どうでもよかった。健康を取り戻すために必要なことをしていたら、必然的に生活が整っただけであって、生活そのものはどうでもいいはずだったのだ。
今、身体の健康は取り戻しきれていないのに、やたらと暮らしは丁寧で、将来は不安定極まりないのに、つまらないくらいに情緒は安定した自分がいる。パンがないのにケーキはあるみたいな人生だ。
愛って、気づいたらあるものなのかもしれないと思う。愛そうとしても愛せないし、愛されたくても愛されない。愛なんて微塵も考えていない時に、いつの間にかそこにあるもの。

ふとした瞬間に、自分を大事にするってこういうことなのかな? とよく思うようにもなった。健康になろうとすることは、身体を大事にすることであり、自分を大事にすることでもあるのだろう。
しかし、こういうことなのかな? 止まりで、こういうことだ! とまでは思えない。未だにやっぱりよくわからない。自分を大事にするとはこういうことで、大事にしたいから実践しよう、というプロセスを踏んでいないから、どこか自分自身が他人のように大事にされている気がする。

ここ1年間の徹底した食事管理の反動なのか、最近、ジャンクなものを食べたくなることが増えた。もともとは特定の何かを食べたいとかたくさん食べたいといった欲がほぼ皆無なおかげで難なく食事管理ができていたところに、反旗を翻すかのような欲が芽生え始めたことは、健康的なことなのではないかという気がしている。思えば9歳くらいまではこういう欲があったから、それが戻ってきたのかもしれない。
そう考えてみれば、私は身体は大事にしてきたつもりだけど、欲求は大事にしていなかった。何事においても強い欲が湧かないから、欲が弱いのかと思っていたが、子供の頃からあらゆる欲を蔑ろにし続けてきたせいで、欲が弱くなってしまったのかもしれない。
小さな欲の芽を見つけて育てるところから始めたいと思っている。食べたいと少しでも思えるものがあったらそれをなるべく食べて、行きたいと少しでも思える場所があったらなるべくそこに行く。それも自分を大事にすることなのだろうし、その先に、私がまだ知らない愛が、いつの間にか転がっているような予感もする。

絶対に終電を逃さない女

1995年生まれ、文筆家。エッセイ、小説、短歌などを執筆。単著に『虚弱に生きる』(2025年、扶桑社)、『シティガール未満』(2023年、柏書房)、共著に『つくって食べる日々の話』(2025年、Pヴァイン)がある。

『me and you little magazine vol.1  特集:愛も生活も、たよりないから』

2026年5月31日 第一刷発行
編集:野村由芽・竹中万季(me and you)
編集協力:日比楽那(me and you)
価格:2,500円(税別)
装丁:脇田あすか、關根彩
印刷・製本:ブックグラフィカ
発行:株式会社ミーアンドユー

♥︎本記事は『me and you little magazine vol.1  特集:愛も生活も、たよりないから』に収録されています。

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