私と「君」の思い出
本作の公開を知ったとき、反芻した記憶がある。私と「君」の思い出だ。私にとっての「君」は、高校の同級生で、部活の同期で、毎日いっしょに帰り、同じオタク趣味を共有して、なんでも打ち明けあえる間柄だった。好きとは言わなかったけれど、お揃いの指輪を右手薬指につけていた。手もつないだ。彼女は結局、大学サークルの同期と付き合いだし、それを真っ先に私に報告してきた。私はそこで私の感情がどういうものだったか気づいた。
見始めると、すぐにセミに感情移入した。明日から修学旅行だというのに、怪我をして入院中のハウンのことが気になって仕方がないセミ。タイトルから受けた、相思相愛の印象と意外と違っている二人。自分の知らないハウンに苛立ち、焦り、友人から身勝手さを呆れられるセミ。世界は決して「君と私」だけでできているわけではない。なんて理屈はガン無視して、ハウンへの想いだけで突っ走っている、突っ走れるセミがいとしい。抱きしめてあげたい。私も、そしてきっと多くの大人たちも、同じだったから。
セミはどんな大人になったはずだろう。ハウンと共に生きるセミがいたかもしれないし、決定的な喧嘩別れをするセミがいたかもしれない。ハウンとのことなんてすっかり忘れて、別の人と出会い、愛し合うセミもいたかも。一人で自由に生きるセミだっていい。映像美と繊細な手つきで描かれる関係に胸の奥を掻き立てられながらも、「君と私」の外に出たセミに出会いたかったと思う。切なくもアンビバレントな作品だ。


