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女子高生カップルの主体的な別れを描いた『サラバ、さらんへ、サラバ』洪監督×首藤凜

韓国出身でレズビアンとして生きてきた洪先恵が当事者として描く女性同士の恋愛

「韓国でクィアの子どもとして生きるのは超大変でした」。そう話すのは韓国出身の脚本家・映画監督で、自身の経験から「レズビアンカップルの別れ」をテーマに短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』を完成させた、洪先恵(ホン・ソネ)さん。

2025年9月26日(金)公開の短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』は、茨城の田舎町を舞台に、女子高生のカップル、仁美(蒔田彩珠)と菜穂(碧木愛莉)を描いています。仁美はアイドルを目指す菜穂を応援していましたが、ある日、菜穂から「K-POPアイドルになるため韓国に行く」と告げられ……。

この作品では、たしかに存在する女性同士の恋愛とともに、アイドル産業への違和感や、自分の夢を叶えようとする主体性、他の誰かに強制されるのではなく、自分たちで別れを決める仁美と菜穂のお互いへの向き合い方が描かれており、韓国で暮らしていた頃から日本で活動をする現在までオープンなレズビアンである洪さんの実感が込められています。そんな本作の背景と、洪さんのこれまでの歩みとは。

撮影当時、洪さんが所属していた、映像制作プロダクション・テレビマンユニオンの先輩社員で、映画監督・脚本家の首藤凜さんとの対談をお届け。働きながら脚本を書き続けてきたという共通点もある二人。「洪ちゃんの存在にはすごく励まされました」と話す首藤さんから観た『サラバ、さらんへ、サラバ』のこと、この作品ならではの魅力についても伺っています。

「自分を救うために、脚本を書き続けないといけない」(洪先恵)

─お二人は会社の先輩後輩として出会ったそうですが、まず洪さんがテレビマンユニオンに入社するまでの道のりを教えてください。

洪:韓国で生まれ育ち、韓国総合芸術学校(K-Arts)の映画学科に通って、当時は映画批評を書いたり、実験映画をつくったり、社会運動をしたりしていました。その後、22歳のときに日本に来て編入した日本映画大学で本格的に脚本を学び始め、日本語で脚本を書くようになりました。

ずっと映画の周辺にいたのですが、しっかりとお金が稼げたことはなくて。韓国人として日本に住むためにはビザの関係で安定した仕事に就く必要があるので、まずは映画より、ドラマとか、テレビの仕事をがんばろうと思い、テレビマンユニオンに入社しました。

洪先恵さん

─入社後、先輩社員の首藤さんとはどのように出会ったのですか?

洪:会社に入ってまず研修があったのですが、なかなかピンと来ないというか、自分がどんな仕事をするのか想像ができなかったんです。そんなとき研修の一環で先輩社員だった首藤さんに出会って、新入社員として一番聞きたいことを教えてくれたのが首藤さんでした。

首藤:洪ちゃんは自分の脚本を書いてると話してくれて、当時、とある脚本賞の最終選考にも残ってたんだよね。私も脚本を書いていたので、洪ちゃんの存在にはすごく励まされました。

入社して2年間は、新人研修という形で会社でおこなっている番組制作のADワークをみっちりやることになるんです。私自身、その期間に自分の脚本を書くのは大変だったので、洪ちゃんも大変だろうけどがんばってほしいと思っていました。

首藤凜さん

洪:研修期間中、私はAD業務が絶望的にできなくて。なんでこんなにできないんだろうって悲しくなってしまうほどでした。それで、なんとか自分を救うために、自分が唯一できる、本当に自分が唯一できることだと思うんですけど、脚本を書き続けないといけないと思っていました。そうしないと、なんというか本当に失敗で終わってしまう気がしていました。

そんななかで首藤さんには、社内で自分がやりたいことをわかってくれる人は誰か、といった相談もしましたし、ドラマの企画書の書き方を聞いたら首藤さんがつくった企画書を送ってくれて参考にしたこともありました。他にも、フィクションとどう向き合うかといったことを教えてもらって、とてもお世話になりました。

首藤:会社としてはテレビ番組の制作業務がメインなので、映画を撮りやすい環境かというと、そうではない部分があるんです。それでも映画を撮るために、この環境を強みにしていく努力はできるはず。私は長編映画を撮った後で新人採用や研修に関わる機会があったので、映画を撮りたいなら主体性を持たないといけないと伝えたい気持ちがありました。

洪:あとは、自分で応募した新人シナリオコンクールの授賞式があったときにどんな服装で行くか迷っていて、首藤さんに「まあ適当に着て行きます」と話したことがありました。そうしたら、首藤さんが「ちゃんとした服を着て行ったほうがいいよ!」と言ってくれて!

首藤:覚えてる! (笑)

洪:それで慌てて帰りに服を買ったのですが、そうじゃなかったら大きな恥をかいていたと思います。当時、私は全然そういう感覚がなかったので、そういうことまで教えてくれた首藤さんを恩人だと思っています(笑)。

首藤:恩人だなんて! でも洪ちゃんとは、映画の話ができるのも楽しかった! 「この前『EUREKA ユリイカ』(青山真治監督の作品)の再上映に行ってさ」と話したら「『EUREKA』は10回は観ました」と言っていたり、洪ちゃんは当時から映画に対する愛がすごかった。

洪:オタクなので……韓国にいた頃から、日本の映画やアニメで日本語を学んだんです。特に大好きな黒沢清監督の作品はDVDを何度も観たので韓国語字幕をつけられるようになるほどでしたし、『新世紀エヴァンゲリオン』のシリーズは作品だけでなく制作過程を映したドキュメンタリー映像まで何度も観ました。

「学生時代の恋愛を振り返ると、誰かに別れさせられてしまったことが多かった」(洪先恵)

─9月26日(金)から公開の『サラバ、さらんへ、サラバ』のお話も伺っていきたいと思います。まず、制作はどのようにスタートしたのですか?

洪:2022年に社内で映画の企画募集があって、これは逃したらだめだと思い、『サラバ、さらんへ、サラバ』のもととなる脚本で応募しました。そこで選んでもらったのですが、すぐにはいつ撮影するかが決まらなくて。

会社や私が担当していた番組の状況が整ってから動き出したのですが……すごく嬉しかった反面、本音を言うと、とにかくテレビの仕事、AD業務が向いていなくて、そのときにはもう会社を辞めようとしていたので、困りました。あとは、本格的に監督として演出をするのは初めてだったので、他の人に脚本を渡して撮ってもらったほうがいいんじゃないかとも考えました。でも、いろいろ考えて、こんな機会はもうないと思い直し、やらせてもらうことにしました。

初めはもっと、暗い話を書いていたんですよ。今は仕事で依頼をいただいて脚本を書くので明るい話も書きますし、『サラバ、さらんへ、サラバ』を撮ってから明るい話も書けるという確信を持てたけれど、当時はコンクールなどで自分一人で脚本書くときに、自分のなかの暗い部分が出てきがちでした。

─脚本を書くのと、脚本を書いて演出もするのでは、脚本自体にも違いが出てくるのでしょうか。

洪:そうですね。企画が通ったら脚本だけでなく監督もやらないといけないと喫煙所で聞いて、監督として演出もやるなら直接スタッフ・キャストの皆さんとコミュニケーションを取るので、自分のコミュニケーション方法的に、暗すぎない脚本のほうがいいんじゃないかと思いました。

首藤:たしかに、『サラバ、さらんへ、サラバ』の最初のシナリオには、明るい印象はなかったね。

洪:そうですよね。応募した脚本では、アイドルになるために韓国に行った菜穂が、日韓の関係悪化によりデビューできなくなって日本に帰ってくる、というストーリーにしていたんです。それは、自分がずっとK-POPが好きで、本当に追っかけみたいな感じで、出待ちとかもしていた強烈なファンなので、がんばってきた女の子の未来が大人の都合でついえてしまうことや、人間をもののように扱う側面があるアイドル産業の構造における違和感を描きたいと思ってのことでした。そして、菜穂が帰ってきた頃には、恋人だった仁美に新しい彼女ができている、という終わり方にしたかったんです。でも、そのストーリーはさまざまな事情から変える必要があって、だったらハッピーエンドを考えてみて、洪先恵の明るい部分を出してもいいのかな、と思いました。

首藤:完成した作品を観ると、普段の洪ちゃんが人といるときに明るく振る舞おうとするところが表れているというか。人ってみんな結構そうじゃないですか。 暗い部分を持っていても、人と接する時は相手のことを考えて、楽しく振る舞おうとする。

『サラバ、さらんへ、サラバ』のポスタービジュアル。
デザインはloneliness booksのオーナーでもある潟見陽さんによる

─タイトルにも「サラバ」とあるように、本作では仁美と菜穂の別れが描かれていますが、女子高生のカップルの別れを描こうと考えたきっかけはどのようなものだったのでしょう。

洪:本格的に演出をするのが初めてだったので、自分に影響を与えた出来事をもとにして書いたほうが、登場人物の感情を演出しやすいんじゃないかと考えたのがきっかけです。

私は韓国にいた頃からオープンなレズビアンで、学生時代の初恋の相手も、同性でした。その子とは長年関係性があって、両思いとわかってからも告白するのに3ヶ月かかりました。でも付き合って1週間で、付き合っていることを家族に知られ、お互いの家族による話し合いの結果、その子は転校させられてしまいました。

学生時代の恋愛を振り返るとそうして誰かに別れさせられてしまったことが多くて、ちゃんとお別れできなかったことが29歳になった今でもずっと胸に残っているんです。そんな経験をもとに、ちゃんとした別れを描きたいと考えました。

「思春期の女の子同士の恋愛を一過性の親密さとして扱う映画が多いなかで、そうやって観る習慣がついてしまっていたのだと気付かされました」(首藤凜)

─首藤さんは『サラバ、さらんへ、サラバ』をどのようにご覧になりましたか?

首藤:完成当初、私は産休・育休を取っていたのですぐには観られなかったのですが、しばらく経って機会があって観たら、素晴らしくて。そのときには洪ちゃんは会社を辞めていたので、すぐに電話して話をしました。

洪:当時はまだ公開が決まっていなくて、映画祭に出品をして、公開を決められるように動き始めた頃でした。会社がせっかく私のことを信頼して、予算をくれて、いい俳優さんたちを決めてくれたのに、力不足だったのかな、日本映画として成立させられなかったんじゃないか、と不安があった時期だったので、社内で憧れて力になってくれた首藤さんが褒めてくれて、すごく嬉しかったです。電話を受けたのが、ちょうど映画祭の帰りで、金浦国際空港のでっかい喫煙所でめちゃくちゃ泣きました。

首藤:勘がいい人だったらファーストシーンの仁美の視線からどういう映画かわかるかもしれないんですけど、私は冒頭の2シーンを「女子高生二人の蜜月の映画かな」と思いながら観てしまったんです。でも、その次の芝生で仁美と菜穂がキスするシーンで、はっきりと二人が付き合っていると明示されるんですよね。

思春期の女の子同士の恋愛を一過性の親密さとして扱う映画が多いなかで、そこで、私もそうやって観る習慣がついてしまっていたのだと気付かされました。二人の別れを描くというのも新鮮に映りましたし、切実な物語だと感じました。

二人のキスシーンに芝生というオープンな場所を設定しているのも秀逸だなと。現実に芝生で触れ合う制服の二人の女の子を見ても、もしかしたら私は「付き合っている」と認識できないかもしれない。この年齢の女性同士の恋愛をいかに不可視化してきてしまったか、突き付けられるようで。

洪:二人が友達関係ではなく恋愛関係であることを早く見せたかったので、前半にあの芝生のシーンを入れました。女性同士の恋愛を存在しないものとすることに、抗いたい思いがありました。

『サラバ、さらんへ、サラバ』場面写真。左から、菜穂と仁美

首藤:あとは、アイドルを目指す菜穂の描き方も新鮮でした。10年くらい前だったら、現実逃避的にアイドルになりたいと思っている夢見がちな女の子の像や、男性に消費されることを予感させるような描き方が多かったと思います。

一方でこの作品では、嫌な感じの芸能事務所の人によって社会の構図を提示しつつ、菜穂が主体的に描かれていた。洪ちゃんはどういう意図を持ってたの?

洪:私はK-POPアイドルが好きなんですけど、年を取るにつれ、アイドル産業がおかしいということに気づいていきました。それで菜穂を、自分の意志でアイドルを目指す女、夢を持って旅立つ女、目標のために自分の好きな女と別れる選択をする女として、主体性を持たせて描きました。アイドルが好きな自分の葛藤や反省も含まれていると思います。

首藤:今の話に関連して、仁美が週刊誌記者の真似をしてスマホのカメラを菜穂に向けて「一般女性との熱愛について」と突撃するシーンも好きでした。菜穂を応援したいけど、自分との関係もなかったことにしてほしくないという仁美の気持ちが滲んでいて切なかったですし、菜穂が「事務所を通してください」と答えるのも、彼女がすでに仁美とは違う未来を見ている感じがありありと伝わってきて。

─菜穂の主体性が描かれているのと同時に、芸能事務所の人が菜穂の16歳という年齢を「(デビューに向けてレッスンするには)遅いほう」「不安要素」として指摘したり、規約のなかに「異性交友の禁止、異性関係の証拠削除」と「異性」を強調して菜穂と仁美の関係を透明化したりする描写がありました。お二人がおっしゃる「アイドル業界の構図」はそういったところで描かれていますね。

洪:アイドルを取り巻く環境について話すと、オタクあるあるの内輪ネタみたいなもののなかで「推しが自分のものにならないなら、いっそ同性愛者だったらいいのに」と言う人は少なくないんです。でも私は当事者として、その言い方には複雑な気持ちになります。そんな文脈からも、仁美と菜穂が仲のいい友達同士ではなく、恋愛関係であることをはっきりと表す必要があると思っていました。

サラバ、さらんへ、サラバ』場面写真。芸能事務所で契約をするシーン

─これまでのレズビアンの描き方に対して、洪さんが感じてきたことはありますか?

洪:女性同士の恋愛を描いた作品のなかには大好きなものもありますが、恋愛だけにフォーカスしている話や悲しすぎる話が多い印象はあります。付き合うことが叶わないから心中してしまうとか……。

あとは、いわゆる濡れ場や愛情表現のシーンに偏りがあったり、レズビアンの見た目が限られていたりするとも感じていました。たとえばショートカットの女性とロングヘアの女性が付き合っているとか、ステレオタイプの二人がくっつくことが多い気がします。でも、最近は『あやひろ(彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる)』とか、ステレオタイプに囚われていない、かつ軽い気持ちで観られるものも増えてきていると思います。

─そんなこれまでの表象があるなかで、洪さんが本作で仁美と菜穂の関係を描くなかで意識したのはどのようなことでしょう。

洪:お互いが好き同士であることを疑う描写、そのことに悲しむ描写は絶対に入れないと決めていました。脚本段階で、そういう葛藤も描いたほうがいいんじゃないかという意見もありましたし、映画が完成した後に、現実はこんなに甘くないんじゃないかとか、茨城の田舎町で女子高生がオープンに付き合っているなんてありえないんじゃないかという意見もありました。でも、甘くないことは私もわかっていますし、今回私が描きたかったのはそういうことじゃなかったと思います。

他に意識したのは、二人の親密さの表現です。仁美と菜穂が長く付き合っていて、雰囲気を作らなくてもキスできることを表現するために、キスする前に二人がおならの話をしているセリフを入れました。なんでおならなのかというと、私がおならが好きだからなんですけど(笑)。あとは、相手の耳や顎の触り方の演出も繊細にしました。

ただ、撮影が始まって、仁美を演じた蒔田彩珠さんと菜穂を演じた碧木愛莉さんには、演出をしすぎなくていいな、と思いました。最初は、どう演出するか、台本にたくさん書き込んでいたのですが、二人は私の想像を超えるお芝居をしてくれましたし、私は20代後半で、日本の女子高生になったことがないのに対して、二人は私より若くて日本の女子高生を経験しているので、そんな二人を信頼して任せたいと思いました。

『サラバ、さらんへ、サラバ』場面写真

「韓国でクィアの子どもとして生きるのは超大変でした」(洪先恵)

─本作では二人の女子高生が描かれていますが、首藤さんも『なっちゃんはまだ新宿』や『ひらいて』などで、女子高生が主人公の物語を描いていらっしゃいます。洪さんは首藤さんの作品について「不安定だけど欲望がある女の子を描いている」とおっしゃっていましたが、首藤さんが女子高生や女の子を描くにあたって、意識してきたことがあれば教えてください。

首藤:「女子高生」とか「女の子」という主語で意識したことはあまりないかもしれません。でもたしかに、映画を観てくださった方から描かれている人物に対して「欲望に忠実」とか、「自由で羨ましい」と言ってもらうことはあって、逆に私は「欲望に振り回されて苦しい」と思って生きてきたので、そういうふうにおもしろがってもらえて嬉しいなと感じたり、抑圧されている人が多いんだと思ったりすることはありました。

私自身も、30歳になって、親になって、社会から求められる振る舞いが自分のなかに蓄積していることを感じますし、社会全体を見渡してみても、属性によって抑圧されている人々がいるとあらためて感じます。その上で、やっぱり人間は多面体で、一人の人のなかに相反する感情もあって、属性を超えて溢れてくるその人らしさがあって、一方で、脚本では言動しか書けないから、言動には現れないような、人間の内面にある複雑さをどうやって表現しよう、ということは考えます。

洪:首藤さんが書く女性が現実にいたら、すごく惹かれてしまう、好きになってしまう、と思います。首藤さんが書く女性は、自分の欲望を持って最後まで突き進もうとするというか、自分が傷つくことも周囲の人も傷つけることもわかっていながらも、逃げずに進む。

首藤:たしかに『サラバ、さらんへ、サラバ』を観て、なんとかしてこの二人が付き合い続ける方法はないのかな!? とはすごく思いました。多分単純に、洪ちゃんと私の性格の違いですよね(笑)。私は結構、好き合っているのに別れる二人を描く作品を観て、「強引にでも付き合い続けられないのかな」という感情に支配されてしまうタイプというか……。でも『サラバ、さらんへ、サラバ』は自分のことも相手のことも考えて別れを選び取る、ということを切実に描いているから、切ないと感じるけれど、とても好きです。

─最後に、公開が始まるにあたって、洪さんの思いを伺いたいです。

洪:いろいろな方に観ていただきたいですが、クィアの、特にレズビアンのユースたちにもこの作品が届くといいなと思います。日本で幼少期〜思春期を過ごしていないので状況の違いがあるかもしれませんが、私は韓国でクィアの子どもとして生きるのは超大変でした。

同性が好きということだけでこんなにも自分を否定したり嫌いになったりさせられるのか、と思いましたし、私はずっと家族にも認められず、周囲の人、わかり合えると思った人からも、否定されたり嫌われたりしたことがありました。おそらく、悲しいことに、今同じようにつらい思いをしている若い人はいっぱいいると思うので、この映画を観てもらって、私のような人間も死なずに大人になって表舞台に出ることがあると伝えたいという思いがあります。

─これまで各国の映画祭で上映されていますが、どんな反応がありましたか?

洪:『ソウル国際女性映画祭』の「クィアレインボー」セクションで、上映後に高校生のレズビアンカップルが泣きながら私のところに来てくれたことがありました。大学進学を機に別れることを決めたという二人でした。それから、中年の女性が「大変だったね」と言ってくれたことがあって、たしかに大変だったな、とこれまでを思い返して、励みになりました。自分のお母さんも、そんなふうに言ってくれたらよかったのに、と思いました。

─今回、『サラバ、さらんへ、サラバ』は、新宿バルト9などで上映されます。さまざまな人に届き、感想が寄せられるのが楽しみですね。

洪:新宿バルト9のような、同時期にさまざまな作品が上映されているシネコンで上映されることにも、すごく意味があると思っています。たとえば『鬼滅の刃』を観に行って、ロビーでこの作品の予告が流れているのを目にする人もいるはずで。あとは……褒めてもらえたら嬉しいです!

『サラバ、さらんへ、サラバ』予告編

洪先恵

1996 年生まれ、韓国出身。韓国芸術総合学校映画学科に入学後、日本映画に関心を持ち、日本映画大学脚本コースに編入、卒業。⻑編脚本『富士山がついてくる』が、第32 回新人シナリオコンクールを受賞。レズビアンとして学生時代を過ごした自らのセクシュアリティと実体験をもとに描いた本作で初監督を務める。

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首藤凜

1995年東京生まれ。
中編『また一緒に寝ようね』がぴあフィルムフェスティバル2016で審査員特別賞と映画ファン賞(ぴあ映画生活賞)を受賞。
商業デビュー長編『ひらいて』(綿矢りさ原作)でドイツの映画祭ニッポン・コネクションにてニッポン・ヴィジョンズ審査員賞を受賞。
その他、『なっちゃんはまだ新宿』『21世紀の女の子』など。

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『サラバ、さらんへ、サラバ』

2025年9月26日より新宿バルト9ほか公開

監督・脚本:洪先恵
出演:蒔田彩珠、碧木愛莉、他
製作:テレビマンユニオン
配給:イハフィルムズ

公式サイト
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