日付が変わって9月29日午前0時、自宅兼本屋として7年ほど住んでいた北新宿の部屋を今日引っ越さないといけない。自宅と本屋を分けるために、本屋となる新しいスペースに大量の本とたくさんの本棚、ソファ、机や椅子をすでに運んだというのに、北新宿の自宅には、まだ途方に暮れるほどものが残っている。
朝には、引越しを手伝ってくれるTANさんとフリーランスの引越し業者の方が来るので、結局徹夜をして、箱詰め作業をすることにした。カテゴリーに分けて、断捨離して、スマートに引越ししたいなんて思い描いていたのは最初の数時間だけで、途中からはとにかく手当たり次第に箱にものを突っ込んで、新居に全て持って行ってから考えよう、という現実路線に変更していた。
「ミニマリストになりたい、ミニマリストになりたい」そんなことを呪文のように唱えながら、ひたすら箱詰めをしていたら、外が明るくなっていた。
午前10時、TANさんと引越し業者さんが到着。3人というのはすごいもので、1人だと進まなかった作業が、3人だとどんどん進む。ありがたい。1人で箱詰めしている時は不安しかなかったのに、霧が晴れるように午後にはゴールが見えてきた。自分1人なんて本当に非力な存在だとしみじみ思う。新居は前の部屋から歩いて10分。最後に、今回の引越しで一番の重い荷物、40キロ以上ある大きなレーザープリンターを台車に乗せて運ぶ。かれこれ10年以上使っている大切な仕事道具を狭い新居の玄関に運び込んで「やったー! 本当にお疲れ様でした」と、無事引越しを終えることができた。
TANさんと引越し業者さんを見送った後、束の間の開放感に包まれて、山積みの段ボールの隙間に横になり、少しひんやりする床に顔をつけてみた。
「独り身のおじさんの狭い部屋、誰も来ないかもしれないけど……でも、この部屋でどんな物語が待ってるんだろう」上京したての大学生みたいに、一瞬心が弾む。岩井俊二の映画『四月物語』に登場する、まだ10代の松たか子になったみたい。
そういえば、新しい部屋のすぐそばに綺麗な桜並木があることを思い出した。「春になったら、お花見、誘ってみようかな」そんなことを思った。