犠牲が増え続けるガザと危険にさらされながらも支援を続ける人々の姿
2025/1/15
1980年に発足した国際協力NGOである日本国際ボランティアセンター(JVC)。現在はパレスチナを含む、中東・アフリカ・アジアの5カ国で活動しています。パレスチナでは、東エルサレムに現地事務所を設置し、パレスチナ自治区の東エルサレムとガザ地区で活動。20年以上、母子保健や子供の栄養支援を行ってきましたが、2023年10月7日以降はそれまでの活動に加え、現金給付や粉ミルク支援、即時停戦への働きかけを求めるアドボカシー(政策提言)活動を行っています。そのような現地での活動の報告会が、2024年9月3日に「【緊急アクション19】現場の声で知る、ガザ市民のいまと支援活動」と題して行われました。
10月7日の攻撃から1年が経った現在、パレスチナの人々はどのような危険に晒され、どのような避難生活を送っているのでしょうか。エルサレム事務所代表であり、ガザでの支援事業を担当する大澤みずほさんが、現地スタッフの声も含めてガザの現状を伝えてくれた報告会の様子をお届けします。
イベントが開催された2024年9月3日は、2023年10月7日の侵攻から333日目。スライドには、一枚のイラストが映し出されます。はかりの上に黒いビニール袋が乗り、表示される18KGという数字。その下には「HERE IS OMAR. (これがオマールだ)」という文字が。爆撃によって、個人がわからないほどにバラバラになってしまった遺体を、なんとか家族が袋に集めて埋葬する毎日。それこそが象徴的なガザの現状だと、大澤さんは言います。
2024年9月1日時点で、死者は40,786名、負傷者94,224名、行方不明者10,000人以上。しかし、これは報告されている数字であり、病気などの関連死を合わせると18万人以上が亡くなっていると推定されるそう。保護者のいない子供も1.7万人ほどおり、4割近くの世帯が自分の子供ではない子供の世話をしているほか、そのような大人を見つけられなかった子供たちは病院などで寝泊まりをしているといいます。
攻撃の初期は、イスラエル軍が北部を攻撃するため住民に対して南部への退避命令が出しましたが、次第にラファやハンユニスなど南部への攻撃も始まったため、現在は中部のデイル・アル=バラフに人口の半分ほどが避難している状況です。ガザ内の避難民は人口220万の約9割だといいます。
イスラエル軍による空爆や銃撃の他にも、住民はさまざまな命の危険にさらされています。2023年10月から続く水と食料の不足は、多くの人の栄養状態を悪化させ、脱水と飢餓をもたらしています。これまでは北部が最も不足していましたが、現在はラファなどの南部でも物資が入らない状況なため、このような状況が南部でも蔓延することが懸念されていると言います。
また、医療も壊滅的な状況にあります。ガザにある36の病院のうち、現在稼働しているのは17病院のみ。さらに、電気や医療物資、スタッフの不足などにより、部分的にしか稼働できていない現状があるそうです。国際NGOや現地NGOなど、さまざまな団体が保健ポスト(診療所)や小さいクリニックを運営しているものの、資源には限りがあるため十分な医療は施せていないといいます。救急隊員などを含む医療従事者も、現時点で885名亡くなりました。
ガザのテントの様子
このような深刻な避難生活が始まってから、ついに一年が経ちました。ガザの人々は、再び雨季が来ることに恐怖を感じていると言います。去年、戦闘がはじまってすぐに訪れた雨季。避難所のテントが水浸しになり、水が溜まっては掻き出す毎日で、子供たちは湿ったマットレスの上で寝る生活を送っていたといいます。
10月7日からの1年間、ガザではさまざまな団体が支援活動を行ってきました。JVCでは現在、二つの現地パートナー団体と協力しながら支援を行っています。
一つは、20年以上東エルサレムで学校保健事業を協同していたパレスチナ医療救援協会(PMRS)です。ここ数年は活動を共にしてはいませんでしたが、10月7日以降、ガザ内でいち早く医療を提供していたことから連絡を取り、粉ミルク支援をはじめたそう。現在PMRSでは、45の医療チームがガザ全域で動いています。
2024年5月には、PMRSのガザ北部責任者でもあるムハンマド・アブ・アファッシュ医師が、JVCによるインタビューに答えています。「自分もいつ攻撃にあって死ぬかわからない。だから、いつも仕事の情報などをチームのスタッフに共有して、自分がいなくなった時も医療活動が続けられるように心がけている」と話してくれたそうです。現在はJVCと共同で医薬品の配布を検討しており、PMRSが現地で調整を続けているといいます。
もう一つのパートナー団体・アルデルインサーン(AEI)とは、20年以上ガザで子供の栄養支援を続けてきました。10月からの数ヶ月は、スタッフも各地に避難したことから活動ができない状況にあったものの、今年に入ってから活動を開始し、JVCとは現金給付をはじめました。
AEIが母子保健に特化した団体であることから子供にフォーカスし、2歳以下の子供が複数いる家庭や障害を持つ人がいる家庭、また母親が妊産婦である家庭などに対象を定めたといいます。現在現金給付は終了していますが、栄養支援を再開し、ボランティアの女性たちに支えられながら、子供たちへの簡単な検診を実施。保護者への栄養カウンセリングを行い、栄養失調予防の液体ミルクや高カロリービスケットなどの補助食品を配布しているといいます。
ボランティアに来ている女性たちの中には、パートナーがイスラエル軍に捕まって消息がわからない人や、近い家族や親戚を亡くしている人もいるそう。当初はボランティアの方に参加してもらうことは考えていなかったものの、参加したいという声があったといいます。このボランティア以前にも、自分がいた避難所で自主的に子供たちの栄養や衛生について啓発する活動を一人でやっていた人もいるそう。
支援を届けることはもちろんですが、身の危険を感じながらも、気持ちを強く持って活動している人たちにも寄り添いたいと、大澤さんは言います。救出作業に携わる人、食べ物を作って配給する活動をしている人、無償で医療職者の手伝いをする人など、ガザの中では多くの人がボランティアをしながら助け合っているそう。JVCとAEIの活動拠点となっている学校も、個人がリーダー的な存在として運営しているといいます。
国際団体で働いてきた経験を経て、4月からJVCの現地スタッフとしてAEIとの支援活動に携わっているというガザ出身のバッシャール・アブー・ザーイドさん。以前は名前や顔を出すことに恐怖を感じていたものの、現在はJVCの一員としてメッセージを伝えていきたいと、顔を出しているといいます。
「先日、死亡が確認されたイスラエル人の人質の女性の生前の映像を見ました。私も10月7日に海沿いのおしゃれなレストランにいたら、突然戦争が始まりました。彼女も、音楽フェスに行っただけという意味では、私と同じではないかと思います。市民がこうして非人間的な殺人マシーンの犠牲になること、ガザで5万人が殺され、ただの数にされていることがいまだに解せません。私たちはただ安心して暮らしたいです。以前、SNSで日本の大学などによるアドボカシー、アクションを見てうれしく思いました。お金はいらない。ふつうに暮らしたいんです。パレスチナ人がどんな人なのかを知ってほしい。私たちは世界中の人たちと同じ、ふつうの人間です。どうか、アクションを起こしてガザの人々を支えてください」
大澤さんは、日本で起こるアクションやSNS上の発信をパレスチナの人々が目にしているといいます。
「自分たちが声をあげることがどれくらい力になるのか、疑問を持つ方もいらっしゃると思います。でもガザの人たちも日本からの発信も目にしていて、精神的に力になっているといいます。『自分たちのことを気にしてくれている人が、まだ外にいるんだね』っていう言葉が返ってくるほど、世界に見放されているような気持ちになっている中、アクションを目にするということは今ひどい状況にある人たちにとって支えの一つになります。ぜひ皆さんも一緒に、自分の生活の中でできるアクションを何かしら起こしてもらえたらと思います」
ガザにおける活動報告ではないものの、ガザのニュースに埋もれてしまってなかなか注目されないヨルダン川西岸地区についても伝えたいと、大澤さんは言います。
西岸地区の北部にあるジェニンでは軍事作戦が行われており、街中のアスファルトが荒らされ、水道や電気などのインフラが全て破壊されています。住人は危険を感じるため外に出られず、水や食料を買いに行けないほか、そもそも家や店、車が破壊されてしまい、動けないような状態が続いているといいます。銃撃戦によって負傷者も出た場所もあるものの、救急車が通れないひどい道路状態やイスラエル軍に救急車が止められてしまうなど、怪我人まで辿り着かない状況があるそうです。
また、8月には一般人であるはずのイスラエル人の入植者が銃や武器を持ってパレスチナ人の家に火をつけて回ったり、羊飼いの家から羊800頭を盗んだりするなどの事件が起こっています。「そのような入植者の行為も、イスラエル軍が容認し、放置しているということを心に留めていただけたらと思います」と大澤さんは言います。
2023年10月以前に撮影された、パレスチナでの支援活動中の写真
質疑応答では、東エルサレムにいる大澤さんへ、支援をする中で危険を感じることはないかという質問も投げかけられました。大澤さんは、東エルサレムにいる限りは身の危険を感じたことはないと言いますが、パレスチナ自治区ではあるものの、西岸側からは隔離され、イスラエルの法律が適応されていると言います。
「東エルサレムで暮らすパレスチナ人たちがSNSにガザに連帯する気持ちを投稿したり、パレスチナ関連のアカウントをフォローしたりするだけで、一時期は逮捕者が何人も出ていました。東エルサレムのパレスチナ人たちは、何か言いたくても言えないし、支援をしたくてもできないような状況でもあるので、そのせいで東エルサレム内では衝突が少ないというのが現状です。本当はみんな何かしたいんですけど、静かにせざるを得ない状況です」
10月7日以降、イスラエル側の被害者が出たことでより右傾化が進んだイスラエルでは、ガザを全滅させるまでやらなきゃいけないという大臣さえも出てくる中で、それでも声をあげるイスラエルの人たちは少数であるものの存在するそう。また、イスラエル側の人質が帰ってこない中で、人質のために停戦が必要だと訴える人もいるといいます。
大澤さんは、バッシャールさんや他のパレスチナの人々から「自分がパレスチナ人だからパレスチナについて声をあげてほしいというわけではなく、今起こっていることが世界的に見ておかしいということを認識して声をあげてほしい」と言われたといいます。大澤さんも、「さまざまな国の政府が人道を気にしていない行動を取っているものの、そこを変えていけるのは市民」だと話しました。
約一年、SNSではさまざまな映像、写真が流れてきました。報道写真やニュース映像のような画角が定まったものではなく、泣きながら震える手で亡くなった家族を映したものや、瓦礫が散らばった地面をつまずきながら走る様子。大澤さんが共有していたガザから届いたさまざまな映像も、スマートフォンで撮った縦長の映像でした。
10月3日に、JVCは「10/7から1年、ガザ在住スタッフの声を通じて知る現地の今」というタイトルでオンラインイベントを行いました。その際にガザ現地スタッフであるバッシャールさんも登壇し、日本の人々ができることとして、ガザの写真や映像をシェアすることがあると話しました。戦争がはじまったころ、ガザの人々は世界から無視されていると感じたと言います。個人が特定されるような情報が出ると標的にされるかもしれないという恐怖を抱えながら、世界中にガザの現状を届ける人々。バッシャールさんは繰り返し「私たちを忘れないでください」と伝えます。
「私たちは数ではありません。たくさんの家族を失いながら生き延びています。みなさんにできることは、私たちが直面していることを理解していない人々にガザの苦しみや物語を共有することです」
避難所を移りながら、爆撃から逃げながら、片手に持ったスマートフォンによって届けられたガザの現状を、私たちがどう伝え、行動していけるのか。イスラエルによる占領は10月7日にはじまったことではなく、76年以上さまざまな人が解放を訴えてきました。それを心に留めた上で、次の一年がさらなる虐殺の歴史とならないよう声を上げ、パレスチナの人々に対しても、絶対に見放さないという声を伝え続ける必要があると強く感じました。
JVCへの寄付について
バッシャールさんは、季節や情勢によって必要なものが異なることから、支援団体への寄付によってガザの人々がその時に必要なものを手に入れられると言います。
「今のガザの支援ニーズはみなさんの想像を超えるものです。いくらであっても、みなさんが払ったお金は本当に助けになります。アドボカシーや発信による支援ができない人には、寄付による支援をおすすめします」
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me and you shopの売上の一部は「JVC 日本国際ボランティアセンターのパレスチナ・ガザ緊急支援」を通じてパレスチナに、「日本赤十字社 令和6年能登半島地震災害義援金」を通じて能登半島地震の被災地に寄付いたします。また、書店などで無料で配布しているフリーペーパー「me and you journal」は、me and you shopにおいてはドネーション商品として販売し、売上は全額寄付いたします。
大澤みずほ
北海道出身。子どもの頃にテレビで貧困や紛争などに苦しむ同じ年頃の子どもたちを見て、人々の役に立つ仕事をしたいと思うようになる。看護師となって緊急医療支援に参加すべく、国内で救急医療に従事。勤務する中で命の尊厳や個々人の人生の選択を考えるようになり、青年海外協力隊に参加、南米パラグアイの地域病院や学校で健康啓発活動などを行う。 人々が抱える問題には様々な社会的要因が複雑に関係していることを痛感し、より包括的な支援に関わりたいと考えるようになり、2018年7月、JVCへの入職に至る。
バッシャール・アブー・ザーイド
ガザ出身。保健衛生をはじめとする人道支援活動に強い関心がある。幼い頃、2人の迷子の男の子が路上で必死にお母さんを探しているのを目にしたことをきっかけに、困っている人を助けたいという思いが芽生え、後に人道支援を志すようになる。これまでのキャリアで様々な国際NGOで働きながら多くの過酷なストーリーに触れ、人の苦しみを和らげ、弱い立場におかれたコミュニティの基本的ニーズを求めていくことに尽くしてきた。
人権、特に健康と尊厳ある生活への権利の擁護に深くコミットしており、誰もが質の高い医療を受け、平和の中で健康で充実した人生を送る権利があると信じている。健康な生活習慣を勧め、人びとが自身の権利を主張し手に入れるためのエンパワーメントを行いたい。
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