A. 自分が、自分自身を大切にしてこれたと感じる一番の方法は、書くことです。人は、自在にことばを扱っているようでいて、むしろ自分が発したことばによってできているようなところがあります。なので、何かに迷っているとしたら、何を迷っているのか、なぜ迷っているのかを、書いてみるのがよいと思います。
書かれたことばを読んで、それに対してさらに、自分はなぜそう考えているのか、を考えてことばにする、というのを繰り返して、書き続けられるところまで、少しずつ解きほぐすように、文章にしていってみてください。自分の考えを言い当てていない雑なことばはなるべく避けて、できるだけ丁寧に、ぴったりと合う色にたどり着くまで塗り重ねるように、綴っていくのが良いと思います。
文章は、あれもこれも同時に書くことはできず、順番に、一直線にしか進みませんよね。だからこそ、ことばを選びながら、少しずつ自分の考えていることを文章にしていくと、だんだんと、自分が何を大切にしているのかという輪郭が見えてくると思います。
心というのは、中身のわからない箱のようなもので、そのまま手をつっこもうとすると、不安になるんですよね。けれど書くことで、漠然としていた考えの中身がわかって形を持つと、そこに手をつっこむのは怖くなくなり、不安も落ち着いてきます。そうやって見えてきた大切なものを、なるべく大切にすればよいと思います。自分はそうしてここまで生きてきました。
進路ということばには、何か、ゲームを最短でクリアできる正解の方向があって、どうしたら間違わずにそちらに進めるか、みたいなイメージを持っている人もいると思うんですが、実際そのゲームにはクリアすべき課題や、たどり着くべき目的地があるのではなく、単なるオープンワールドなんですよね。だから、どちらに進むのも、あなたの正解です。どっちに進んでも、ただそこにあなたの人生があるだけです。
就職とか転職とか進学とか結婚といった選択は、たしかにあなたの未来に大きな影響をもたらすでしょう。そのとき、あなたにもたらされる「お金」や「経験」や「環境」などは、ある程度誰かが保証してくれるかもしれません。けれど、あなたの「幸せ」を保証できる人は誰もいないんですよね。幸せは内側にしかなくて、自分でつくるしかない。そして、自分を大切にするというのは、自分の幸せをつくることを優先するということだと思います。
進路の選択においてできることは、あなたが一番大切にしていることをことばにして、それをいつでも取り出せる場所に抱えたら、あとはどの方向でもいいので、勇気をもって進むことだけだと思います。そこから先は、進んでみないとわからないオープンワールドです。進んでいるうちに、ここでは自分が大切にしていることを大切にできない、と思ったら、ちゃんとそのギャップをことばにして、考え尽くして、あとはエイッと決めて、いつでも方向転換する。そしてまた勇気をもって進む。そうやって自分で決めて歩いていれば、少なくとも生きている実感は持ち続けやすいんじゃないかな、と思います。