Ⅰ
朝に成田空港に到着して、入国審査を通過し帰路に着いた。最寄駅について、スーツケースを引っ張りながら歩いていたら、ふと先ほどまでいたベトナムでの身体の動きが思い出された。ハノイの車はあまりウィンカーを出さない。従う基準の車線自体がなかったりするので、車は互いにクラクションを頻繁に鳴らして各々の存在を主張する。歩道の中に路上駐車するエリアがあったりするのを思い出す。誰もがそんな運転をしていたし、けれども問題がないから一般的になっていたのだろう。私が感じた限りにおいては、単にその場の事故を回避しているように見えて少し滑稽でもあった。
このように文章を認める(したためる)と、ハノイの交通は観察対象にならざるを得なかったな、と感じる。歩行者として街を使うとき、この交通状況に適応する形で徘徊することを強いられるからだ。滞在中に知って最も有益だったことの一つが、ハノイ市街地の大通りを横断する方法であるように。私はハノイに訪れたすべての旅行者の多くが、このような街歩きの手法を身につけていたのだと思うと、いまだに信じられない気持ちになる。バイクや車の通行が絶えない大通りでも歩行者はゆっくり堂々と歩くことで、車やバイクが停車しやすい環境作りが可能になるというのが、その手法である。実際に試してみるとその通りだった。自分の存在を知らせるために、スピードを下げ、一定の速度を保ちながら横断する。