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同じ日の日記

シャドーフェミニズムズ講座とコミュニティガーデン/遠藤麻衣

「こうもり🦇」状態、読めない文字の看板。ニューヨークで過ごす日々

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2022年6月は、2022年6月23日(木)の日記を集めました。現在ニューヨークで暮らし、「シャドーフェミニズムムズの芸術実践」講座の講師も行っている俳優、美術家の遠藤麻衣さんの日記です。

朝6:30に起きて、7:30から美学校のオンライン講座。日本は20:30。4月から始まったシャドーフェミニズムズ講座の今日は4回目で、時間をクィアするってなんだ? ということをみんなで話した。まず私の方から、人が成長して、大人になって、社会の中で何かを生産したり役にたったりしながら生きていくという時間の過ごし方に対して、そういう真っ直ぐな時間から脇道へとそれてしまうことや、成長よりもむしろ自己破壊的な欲望をもってしまうことについて、ジャック・ハルバースタムやリー・エーデルマン、レオ・ベルサーニの本を例にだしながら話してみた。小休憩を挟んだあと、おしゃべり時間として、気になったことについて話を深めてゆく。この日は13人ほど参加していて、参加してくれた方のなかから、実際に仕事して生活していくなかで、周りの理解を得るために、大勢の価値観に当てはまるような言葉を選んで自分を説明したり、時間を過ごしたりしているうちに、自分の形が変えられているような、その価値観を脅かさない範囲にクィアな時間が納められているような、そんな気持ちになることがある、という意見がでた。また、自分が相手に合わせて言葉を選ぶことに罪悪感を感じる、とも。他の方からは、大勢を説得するための言葉をもつことと、そういった大勢からは理解されないような欲望をもったりすることのどちらにも自分の居場所を置いている状態を「こうもり🦇」状態と表現して、いかにこうもりでいられるかじゃない? という話がでたりもした。それを聞いて、私も子供のころに読んだイソップ物語を思い出した。動物にも鳥にも仲間だと言うことで、最終的にどちらのコミュニティからも追い出されてしまうこうもりの話。子供のときに、嫌われたくなければ、こうもりでいてはいけないという結末を読みとって怖かったけど、今は、そういった子供のころ無性に怖かった物語を読みなおして、読み方を変えることで気持ちが軽くなることもあるのかもしれないと思った。

午後は、うちの近所にもコミュニティガーデンがあるということで、悠さんと2人でそこに行くことにした。近所といっても二駅ほど先で、歩くと20分くらい。隣駅の、この辺りで一番大きなルーズベルト駅までは歩いたことがあったけど、それより先を歩くのは今日が初めて。高架下のルーズベルトアベニューをしばらく歩く。7トレインが定期的に頭上を走る。その間は話し声が聞こえなくなるので、一旦黙って、通り過ぎたらまた話しだすというのを繰り返しながら歩く。ルーズベルトアベニューは、街のなかで一番飲食店が多い道路で、毎日すごく賑やか。スペイン語やヒンディー語、さまざまな読めない文字の看板が並ぶ。6月ということもあって、レインボーフラッグが掛かっているお店が多い。道路の脇には、先週この辺りで行われていたクイーンズ・ドミニカン・パレードで使われていた即席の木製ガードレールが、ぼろぼろの状態で無造作に寄せられて、回収されるのを待っている。街を歩くと、つねに何かしらの大きなゴミが回収待ちで積み重ねられている。庭仕事をするために軍手を準備しておこうということで、3軒目に寄ったお店で、赤と青の滑り止め用の塗料がべちゃっとワイルドに塗られた軍手を発見。

高架下を超えて、住宅街に入ってしばらく歩くと、車道の両脇にガーデンが2つあるのが見えた。フェンスで囲われた小さなガーデン。何人か人がいるのも見える。ニュールーツとペイントされた看板がある入口から中に入ると、そのうちの2人が声をかけてきてくれた。スティーブとクリスティンというご夫婦。「あなたたちの今日のプランは何?」と聞かれて、特になんのプランもなかったので、私たちはビギナーで、とにかく来てみたと伝える。すると、彼女たちが育てた植物を見せてくれた。育てたいものを持ってきて植えれば良いらしい。トゥルシーというインド由来の植物を摘んで、葉っぱをお茶にすると良いよと、何束かくれた。

ここで何をするかは、サニーに聞いたら良いということで、サニーが戻ってくるのを待つ。しばらくすると彼女がやってきて、水やりしてみる? とホースを渡してくれた。水は、ガーデンからだいたい30mくらい離れた道路の消火栓からホースを伸ばして引いてきている。コミュニティーガーデンのオーソドックスなやり方としては、雨水を貯めて水やりに使うそうで、雨水を桶に貯めておく手作りの装置がこの庭にもある。ただ、雨水だけでは到底水が足りず、市から許可をもらって水を引いているらしい。

このガーデンのニュールーツという名前は、ブロンクスにあるニュールーツというコミュニティガーデンが由来らしい。サニーも普段はそっちの方にいて、こちらへも通ってきているそう。水やりが終わったころに、また別の人がやってきた。被っているヒジャブは、小さな緑色のキャラクターがたくさんプリントされた布で、とてもかわいかった。サニーにご飯を作ってきたといって、その庭でとれた植物でなにかを作って持ってきていた。私たちにも、食べてみてと言って、育てているグリーンピースを摘んでくれた。摘みたてのグリーンピースを食べたことがなかったので、とても甘くてびっくりした。

残った豆とトゥルシーは、カバンにいれて持って帰った。帰宅したころには、トゥルシーはかなりくたっとしていたけど、花瓶を探してだしてきて水に挿したところ、夜にはすっかり元気になっていた。調べたところ、水に挿しておくと根が出るらしい。ニューヨークに住むのは、あと半年ほどの予定で、その後どうするのかは、今のところまったく決まっていない。多分ここを去ることにはなると思うのだけど、ひとまず育ててみようと思う。

遠藤麻衣

身体を通じたおしゃべりやDIY、演技といった遊戯的な手法を用いる。民話や伝説といった史料や、ティーン向けの漫画やファンフィクション、婚姻制度や表現規制に関する法律など幅広い対象の調査に基づき、クィア・フェミニスト的な実践を展開している。主な個展に、「燃ゆる想いに身を焼きながら」愛知県立芸術大学サテライトギャラリー SA・KURA(愛知、2021)。主なグループ展に、「フェミニズムズ」金沢21世紀美術館(石川、2021)、「ルール?」21_21 DESIGN SIGHT(東京、2021)など。2018年に丸山美佳と「Multiple Spirits(マルスピ)」を創刊。2022年より文化庁新進芸術家海外研修でニューヨークに滞在中。

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