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同じ日の日記

私は忘れたくなくて、残したいのか/きら

実家から届いた新米を食べ、アプリでマッチした人と日記のことを話す

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年8月は、8月19日(月)の日記を集めました。公募で送ってくださった、きらさんの日記です。

ここ一ヶ月、同居人が毎日のように「彼氏欲しい! 彼氏欲しい!」と言うので、私も恋愛をした方が良いのかもしれないと思い、半額のバナーが出たタイミングで放置していたマッチングアプリに課金した。「生活に張り合いが出るかもしれないし、ポジティブになれるかもしれないし」と同居人に言い訳する。なんか最近住民税非課税世帯の給付金が振り込まれたところだけど、こんなことに使ってしまって市役所から怒られそう。年齢や距離、興味を絞り、次から次へと出てくる顔面を永遠に左スワイプしていたら夕方になってしまった。疲れた。一体何やってるんだろうという気持ちになってくる。やるべきことは他にもあるのに。

昨日実家から届いた新米を炊き、海苔の佃煮や賞味期限切れの鮭フレークをかけて食べた。新米は新米というだけで立派なご馳走だ。猛暑の影響なのか、地震が立て続けに起こって買い占められたせいなのか、わからないけど、世間はどうやら米不足らしい。実家が農業を営んでいるので、今のところはお米を買わなくて良いという特権を私は持っている。本当は田植えや稲刈りを手伝ったりした方がいいんだろうけど、東京からあの田んぼまではとても遠い。母は私のバイト先にも、お中元のお返しにと新米をまあまあのデカさの米袋で送っていて、配達員さんがズシンと店に置くところを見て、私はちょっと恥ずかしかった。店長は「お米が届いて何事かと思った」とびっくりしながらも喜んでくれていた。社長も「わーい、お米だ〜」と子供みたいにはしゃいでいて、この時ばかりは二人のことを憎めなかった。

Likeをくれていた人にLikeを返したまま放置していたら、「ぜひ気を遣わないでお話ししてもらえるとうれしいです」とメッセージが届いていた。その人のプロフィール欄には数日分の短い日記が書かれていて、私も過去に他のアプリでプロフィール欄に日記を書いていたことや、今もひっそりと日記を書き溜めていることを伝えると、「日記はなんで書き始めたんですか?」と質問された。「もともと美術の畑の出身なのですが、何か身近なところから表現を生み出せないかな〜と思い、日記をつけるワークショップに参加してみたのがきっかけですかね〜」と返した。マッチングアプリのメッセージにしてはちょっと長かったかもしれないけど、ほんとのことを伝えようとしたらこうなったし、実際そうだったんだと思う。「もともとやっていた美術と通じる部分とかありました?」とさらに質問が来て、少し考えた後、「忘れたくないなと思ったことを残すこと、は共通しているかもしれません」と返事をした。「表現方法を変えると自分がやりたかった核の部分が見えたりしますよね」と返事が来て、確かにそうなのかもしれない、と妙に納得してしまった。私は忘れたくなくて、残したいのか。それからたまに思い出したり懐かしんだりして、過去と共に生きていきたいんだと思う。同居人はぬいぐるみたちとすやすやと眠りについていた。雨が降ってちょっと涼しい夜だった。

きら

1996年生まれ。地方の美大卒。名前も知らない人から言われた「作品があなたを連れて行ってくれるから大丈夫」という言葉をたまに思い出しながらつくることを続けている。自主制作の日記本に『ころがるいきもの』『帰省日記』『いしを拾う』、寄稿したZINEに『ケアをクィアする』(本屋メガホン)がある。アートコンビ「13番館」として、ZINEの発行や作品制作も行っている。公園とリサイクルショップと石拾いが好き。

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