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同じ日の日記

フェアリーギャルの鱗粉を浴びて/うえまつ

台湾から日本に一時帰国してきている友人が、お泊まりに来てくれた日

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年7月は、7月4日(木)の日記を集めました。公募で送ってくださった、保護猫にまつわる活動などを行う、うえまつさんの日記です。

同居人が朝からソワソワしてる。クールビズ仕様の出社服に着替えながら、「結局、今日はうちに泊まる感じになったの?」と訊ねてくる。「うん、来るってさぁ〜! 夜は演劇を観に行くらしいから22時以降とかになるんちゃうかな?」と返すと、「そっか〜!」と少し声のトーンが明るくなった。
台湾から日本に一時帰国してきている友人に会えるのがどうやら楽しみらしい。たった1回しか会ったことがないのに、同居人はこの友人をいたく気に入ってる。かなり謎なんだけど、なんとなく理由がわかる自分もいる。波長みたいなものがすごく似ているからだと思う。
かく言うわたしもお泊まりに来てくれるのが楽しみで、会社からの帰り道、翌朝みんなで食べるためのパウンドケーキを吟味したけど。
翌朝、友人を起こさないよう、冷たいコーヒーを淹れていた。
「〇〇(友人の名前)がいるだけなんだけど、なんかみんなで旅行に来てるみたいで楽しいね」

まだ寝息が聞こえてくる部屋をみながら、同居人が話しだす。
同居人との暮らしや関係性が周りの友人や、ルームメイト(一時預かりの猫)のおかげで、しなやかに拡張され、踏み固められていく感覚について考える。
不本意に向けられる「2人で一緒にいることではじめて、十分な“大人”」とみなす外からの目線。そんな目線の絡まりをほぐし、視界の中に違和感を抱かせるのは難しい。ことあるごとに、対をなしてることが通過儀礼を終えた、「おとな」であるような規範にあてはめられる。そんなものに加担したくないのに、加担しているようで重たい。
ただ、社会からの勝手なジャッジで、障害物が取り除かれている場面も多いから、どうにかして自分の持ちえたものを狡猾につかって異分子になりたいと常々思う。
そのために、「対」という概念の輪郭を押してみたり、中から叩いてみたり、消しゴムで擦ってみたり、上から別の線を引いてみたりしてる。
嵐のようにやってきたフェアリーギャルは、キラキラした鱗粉で輪郭を撹乱してくれる。いつもの視界が少し変わる。すると、外からの視線が屈折していく。「こんなやり方もあるんだなぁ」と体がジュワッと満たされる。少し身軽になって、妖精みたく異分子に近づけた気がした。
6畳の和室にシングルとセミダブルの布団を並べ、合宿みたいに雑魚寝する。ダラダラ遅くまでおしゃべりしてる人間たちを、うるさそうに薄目で見てくる猫。昨日買ったパウンドケーキは、オレンジの香りがスッキリと鼻にぬける。お土産にくれたルイボスティーとの相性がバッチリだった。
こうやって、生きてる。こうやって、わたしたちはお互いの輪郭を探り合ってる。こうやって、お互いに作用しあってる。こうやって、わたしはわたしを何度も意義づけていく。
気づいたらクーラーで二の腕が冷えていて、外は明るくなっていて、みんなスヤスヤ寝ていた。こんな日がまたあるから、今日も愚直に生きていけるのだと思う。

うえまつ

1996年生まれ。長崎と五島列島が心のふるさとです。IT企業でデータ分析をする会社員。猫が大好きで、保護猫業界の”自続可能性”を高めるため、保護猫団体と協力して企業のCSVをサポートする株式会社neconoteでもお手伝い。保護猫の一時預かりボランティアなども行っています。

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