和歌山で柴犬と共に暮らし、同性のヌードや家族写真、日常の写真を撮る
2024/11/28
和歌山県で生まれ育ち、2014年から柴犬の男の子と暮らしている、写真家の北田瑞絵さん。「inubot」というTwitter(X)アカウントに犬と暮らす日々の写真を載せ続け、フォトエッセイ『inubot回覧板』も話題を呼びました。me and you little magazineのトップページでは、メディアが始まった2022年2月からしばらくの期間、朝4時から10時までの時間帯に北田さんが撮影した海を眺める柴犬の写真が飾られました。
塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞した2017年の写真集『一枚皮だからな、我々は。』では、女性のヌード、家族、和歌山の自然などの写真を通じて、人、動物、自然、どれもが変わらない「一枚皮をまとった命」であることを写し出しています。今、また新たな写真集をつくっているという彼女に、自分にとって作品とは何なのか立ち返りながら、心の内側から絞り出したような言葉を寄せていただきました。
写真家としてどんな作品をつくっているか、活動内容を教えてください。
竹中さんからいただいた質問の第一項目に「写真家としてどんな作品をつくっているか。活動内容を教えてください」とあった。馴染みのある内容であるはずなのに、はじめて見たような顔をしていた。自分の内側で、写真や作品の関係が経年変化しているからである。自分も知らないうちに。答えるためには、まず自分にとっての作品が何なのか立ち返る必要があった。昔から「みずえ考えすぎやねん、相手はもっと軽く聞いてるんやから」と言われたなぁ。考えるけど。
まずは“作品”の意味を辞書で引いてみた。心に引っ掛かった言葉を辞書で引くのは2002年にリリースされたプッチモニ。のデビュー曲「ちょこっとLOVE」のAサビ、「恋という字を(Oh Baby)辞書で引いたぞ(Oh Baby)」という歌詞の影響である。当時多くの小学生がそうであったように自分もまた、つんく♂さんに入塾していた。
さく-ひん【作品】製作したもの。製作品。とくに芸術活動によって作られたもの。
自分は10年くらい同性のヌードを撮っているのですが、他者の輪郭を知ることで自分の輪郭を知り得るのだと思っているんです。辞書が提示してくれた型を取り入れて、反応が生まれる。
まず、引いといて何なのですが(ほんとに)、私は製作したものだけではなく、製作の過程からこぼれ落ちていったものも作品だと捉えている。写真集をつくる・展示をするときには膨大な量の写真から一枚一枚見て、選んでいく。
なにを選び、なにを選ばないかで作家自身のエッセンスが濃くも薄くもなる。そこで選んだ写真はもちろん重要だが、選ばれなかった写真もひとしく重要である。
もっと言うと、写真を撮っていて、撮らないという選択が生まれる時間もある。そのときの撮らない選択もまた写真行為だろう、と信じている。
まあ製作を経て完成したものだけを作品と呼ぶいさぎよさがないとも言える。それとこれとは別物だと切り離せない。でもme and youの前では未練がましい自分でいたいよー。
作品をつくるときに大切にしていることは?
写真を撮るときに大切にしているのは、目を凝らすことです。
前の文章で、写真を撮っていて、撮らない選択が生まれると言いました。そのとき、写真には写らなかった対象も写した対象くらい凝視している。
これはカメラを持っていなくて、本当に撮れない状況でも同じで、生物・無生物、自然、場所、実体があるとか問わず、目を凝らしていたい。
……これもまた2001年にリリースされたBUMP OF CHICKENの「天体観測」という名曲の一節ですが、「見えないものを見ようとして望遠鏡を覗き込んだ」という気持ちでやっているのを忘れちゃだめ、ずっと握ってろ。
だから目に見える形で出来上がったものだけが作品と呼ばれるのにも一抹の寂しさを覚えるのかもしれない。
me and youに寄せてくださった写真について、その写真の背景と、なぜこの作品を選んだのかを教えてください。
存在って、二つとないんですよね。写真を撮りながら、すべての存在がかけがえのないものであり、同時に自然の一部だと思うようになりました。自分が写真で大事にしているものとme and youの活動には通じるものがあると感じています。me and youから一貫して感じるのが「私とあなたがあるがままの心と身体をもって生活を続けていく」というメッセージです。社会に声をあげて、個人に呼びかけて、連帯を長く太く続けている竹中さんと野村さんを心から尊敬しています。社会には他者の尊厳をいたずらに奪おうとする人がいるけれど、me and youのような守ってくれる人もいるのは、希望です。
北田瑞絵
和歌山出身、同地在住。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。犬との日々を綴ったフォトエッセイ「inubot回覧板」をESSEonlineで連載中。扶桑社より書籍化。
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