ithには多くの同性カップルも訪れ、公式ブログなどの発信でもそのエピソードが綴られているが、ウェブサイトなどではLGBTQ+フレンドリーであることを全面に打ち出していない。「同性同士だからといって特別視するのではなく、他のお客様と変わらず対応しています」と高橋さん。私自身、「同性カップルだから」といった前提や枕詞があることで特別視されるのは好まないので、セクシュアリティやジェンダーというフィルターを通さずにフラットに接してくれるithのスタンスは心地よい。𠮷田さんは続けて「そうした考えが以前からずっとあったからこそ、あらためてレインボーフラッグを掲げたり、LGBTQ+フレンドリーであることを全面にアピールしたりするのがいいのか自分たちなりに考えているところで、現在は行っていないんです。関係性を一つひとつ大切にするというithとしてのスタンスを指輪づくりを通して体現していれば、みなさんに信用していただけると考えています」と話した。
世の中には、自社のイメージアップのために、実態が伴っていないのにLGBTQ+フレンドリーであることをアピールする企業が存在する。このことを「覆い隠す」という意味の「whitewash」と同性愛者を象徴するカラーの「ピンク」を掛け合わせて「ピンクウォッシュ」という。実際に、パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を続けるイスラエルが、侵攻を正当化する目的でレインボーフラッグを掲げた写真を投稿したとのニュースを見た。日本でも、プライドマンスの6月にレインボーの商品を単に販売するだけで、LGBTQ+コミュニティに対するアクションを何もしない企業は多く見られる。
声を上げなくても当事者が幸せに暮らせる社会があるのがたしかに理想的だ。ピンクウォッシュの事例を見ると、𠮷田さんや高橋さんの意見も理解できる。しかし、だからといって多様性やLGBTQ+当事者の人権について表に出さないことが良しとされるのだろうか。現状の社会では性的マイノリティの存在を可視化しなければ「ないもの」とされてしまうため、あえて言葉やレインボーで「ここにいるよ」というメッセージを伝えていかなければならない。
そんな話をすると、𠮷田さんは「ithとしてはこれまで通りそれぞれのパートナーシップや結婚の形に寄り添っていきたい。でも、たしかに積極的に発信しなければ伝わらないこともありますよね」と、複雑な思いを語った。正解のない問いに対して、「こうすれば良い」という決定的な解はないが、その中で「私たちは何ができるか」を話し合いながら、日々実践することはできる。とても良い議論ができた日だ。