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同じ日の日記

日常にはオチがない/高島鈴

荒れる日もざらにあるし、ここには公開できない範疇の悩みや考え事もあるのだけど

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年6月は、6月22日(土)の日記を集めました。エッセイ集『布団の中から蜂起せよ―アナーカ・フェミニズムのための断章』の著者で、ライター、パブリック・ヒストリアン、アナーカフェミニストの、高島鈴さんの日記です。

いつも土日を予定でギチギチにしてしまいがちな自分にしては珍しく何もない日であった。せっかくだし夜更かしするかと思い、最終決戦直前で止めてクリアしていなかったゲーム「ユニコーンオーバーロード」を前日から再開、必死でボスと戦っていたら夜が明けていた。スマホを見たら5時。さすがに眠い。とりあえず見ようと思っていたエンディングまでは見たので(クィアなエンディングを期待して見たら全然クィアじゃなかったのでキレそうになったけど)、寝ることにする。予定がないとこういうことができるからうれしい。

ということで寝て起きたら昼前だった。食べ物を探して外に出ようかと思ったが、なぜか身体に力が入らない。虚脱感というのか倦怠感というのか、指先がだらんとしてぴしっと立てないような感じ。もしかして? と思って血糖値も確認してみたが(私は糖尿病なので、腕に常時センサーを装着して血糖値をモニタリングしており、スマホからすぐ血糖値を確認できる)、血糖値はいつも通りに高めだったので、低血糖というわけではないらしい。普通に疲れているんだろうか? とりあえず動けないのはわかったので、服薬してお昼ご飯を食べ、もう一度寝ることにした。予定がないとこういうことができるからうれしい(二度目)。

夕方、また起きだす。しっかり寝直したからか、身体も動きそうだ。明るいうちに買い物に行こうと思い、いつもの買い物かばん(ゲリラ・ガールズのプリントが入った丈夫なトートバッグ)を提げて外に出た。

街はまだちゃんと明るい。すれ違う人のシャツの色がしっかり見える。そう言えば昨日は夏至だったのだ。ここからまた陽が短くなっていくのだと思うと、夏は長いようで儚いなと思う。

自分は寒い時期の方が冬季うつや気圧での体調不良が出やすく、寝込みがちなので、不愉快でも夏の方が好きだ。……いや、好きだというのは嘘だな。どっちも好きじゃない。365日秋だとうれしいとわりと本気で思っている。四季のアンチである。

近場のスーパーでいいかなと一瞬考えたが、散歩したくなって駅まで歩くことにする。湿気と風で、草木の匂いがふわっと立ち上ってくる感じがする。目の前で大きな犬が草むらに鼻を突っ込んでいる。駅までの道はあまりお店もなくて、歩いていても視野にひっかかるようなオブジェクトは(私にとっては)ないに等しいのだけど、こういう風景を見ていると、あーなんか、目に入っていないだけでいろんなところにいろんな存在がいるな、と実感できるような気がする。気がするだけで、実際私の認識範囲の狭さでは、あまりにも把握できないことが多いのだけど。

駅前に到着して、ドラッグストアに入る。歩いていたらネイルのトップコートとベースコートが必要であることを思い出したのだ。普段ネイルはほとんどしないけれど、OSAJIの「呼び声」という期間限定カラーがあまりにもかわいくて買ってしまったのである(グリーンにオレンジラメ! 最高! 名前もかっこいい)。明日はイベントだし久しぶりに爪を塗ってもよさそう、と思い、ネイルホリックの棚からそれらをかごに移す。ついでにこまごま欲しかったものを買ってしまう。ドラッグストアだったら数千円の買い物でも何かが許してくれるような気がして、行き場のない物欲が小さな化粧品に変わる。許してね、と思いながらクレジットカードをタッチする。いっつもこう。何に謝ってるんだ? 許されなくたって散財してもいいはずなんだけどな。もう大人だし、カードの上限額はちゃんと知ってるし。

スーパーにも寄って食料品を買って帰宅したらもう疲れてしまって、必要なものを冷蔵庫にしまったら、居間で横になってスマホを触っていた。こういう時間に本を読めよと思う、思うんですけど、まあうまくいかない。読書において困るのは、集中力と優先順位だ。前者は正直努力では如何ともし難いのでいったん置いておくが、優先順位に関しては、何かもっと工夫できないだろうか……と試行錯誤している。

仕事で読む本は、当たり前だけど締切があるのでそれに合わせて読まねばならず、明確に優先して読む。問題は「明確に仕事の課題になっているわけではないけど、これを読んでおくといろいろ役立ちそう」なラインの本で、人文系のライターをしている(≒自分の思考を記事にして生活の糧にしている)自分にとっては、ここをしっかり蓄えておく必要がある。だが、このラインの本はいかんせん興味関心に従って無限に膨張していくので、とにかく数が多く、どこから手をつけるか・どこまで読むべきか・どこで読むのをやめるべきか判断するのが非常に難しい。ちなみに今、食卓に積まれた積読の一番上にあるのは、須田努編『社会変容と民衆暴力』(大月書店)だ。これを読み切るのはいつになるのかわからないが、とりあえず積んでおいて、必要なときにすぐ読めるようにしておくのが大事……と言い聞かせている。

うだうだしていたら20時になっていたので晩ごはんにする。食事はいつもチルドの糖質オフうどんか、糖質制限用の宅食だ。今日は後者。宅食を始めて数ヶ月経つけれど、かなり飽きてきた。全然おいしいけど、「バランスと栄養を考えた炭水化物抜きの食事」というものはどうしても似たような味になるのではないか、という気がする。あとは冷凍食品の難点として、食感の単調さも気になってきた。自分はかなり食感にこだわりがあるタイプの偏食なので、これはわりとネックになっている。

食後は友人と通話しながら、にじさんじ(VTtuberの大手事務所)のグランド・セフト・オートV配信(「にじGTA」)を見た。GTAはロスサントスという街を舞台に、犯罪者から公務員まで好きな立場でロールプレイができるゲームである。ふだんは何であれ生配信を見ることはほとんどないのだが、一つのサーバーに数十名のライバー(配信者)が集まって即興の人間模様を繰り広げるにじGTAだけは異様に面白く、またサーバーの開催が10日間限定と決まっていたので、つい追ってしまっていた(※GTAはかなり暴力的・ややグロテスクなゲームであり、あまりセーフティではないイベント・会話なども発生する配信なので、鑑賞には注意してください)。

ただ配信を追いかけるといっても、数十人のライバーが街のあちこちで活動するので、誰の視点を鑑賞するかによって見られるストーリーは全く異なるものになる。例えばメカニックを選んだライバーだけを見ていると警察が何をしているか把握しきれなかったり、救急隊だけを見ていると麻薬カルテルの動きがよくわからなかったり……。たった10日のお祭りでも、日を追うごとに文脈も情報量もとんでもなく肥大化していたので、全体像を知るためには他のまとめ動画や切り抜きを見る必要があった。要するに……ものすごく面白い代わりにものすごく時間を吸われるコンテンツだったのだ。

実際22日は、8人のライバーによるデスマッチ(と、それに伴うギャンブル)が行われており、私は日付が変わってもなおパソコンの前から動けずにいた。だらだら見ているだけであっという間に何時間も経ってしまう……。ただ、22日は翌日が昼から池袋のジュンク堂書店でトークイベントの予定だったので、日付が変わってから1時間くらいで渋々ストリーミングは消して、素直に寝ることにした。もっと見たかった、けど、まあ、しょうがない……。


ここまで日記を素直に書いてみて、ああ、別に自分の人生ってなんでもないことの連続だなあ、と素朴に思った。考えてみれば当たり前だけど、何も特別なことはしていないし、突然ラッキーなハプニングが起きたりもしない。生活のために必要な行動を積み重ねたり、なんとなくYouTubeを見てなんとなく笑ったりしながら、だらりと生きている。もちろん自分は精神疾患と共に生きているから、そういう「何気なさ」で説明できないくらい荒れる日もざらにあるし、ここには公開できない範疇の悩みや考え事もあるのだけど、それも含めて、良くも悪くも……なんというか、別に面白くない暮らしを送っている気がする。

これを読んでくれる読者さんにとっても、この文章が面白いのかどうか、私には到底判別がつかない(ふだんは自分の書いた文章は常に面白いと思って出しています)。私に興味のある人なら面白く読んでくれるかもしれないけれど、私を知らない人が偶然このページを開いても、だから何だよと思って去っていってしまうのではないかと想像する。ライターなら誰が読んでも面白い日記にしろよと思われるかもしれないが、それをやると、私のリアルな〈面白くない日常〉からはどんどんかけ離れていって、脚色過多で自意識過剰な文章になるだろう。これが日記である以上、そういうものにはしたくない。

そうやって悩みながら、この日記は書き上げられた。面白くないなあ、面白く書きたいなあ、いやでも「面白く書く」に寄せたら絶対にダメだなあ、のくり返しの果てに、起きたことを起きた順番に書いたシンプルな文章が生成されている。オチにできることも特にない。日常にはオチがないからだ。ただ一日過ごしたら、明日のことを考えて寝る(明日のことなんか考えられない日も、いっさい眠れない日もあるけど)。そんな感じで、私は日々をやり過ごしている。

高島鈴

1995年、東京都生まれ。ライター、パブリック・ヒストリアン、アナーカフェミニスト。モットーは「生存は抵抗」。

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『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』

著者:高島鈴
発行:人文書院
発売日:2022年10月25日(火)
価格:2,200円(税込)

布団の中から蜂起せよ – 株式会社 人文書院

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