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super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形

フィルターバブルから抜け出し、生活に社会運動を溶け込ませるためのファッション

毎日選ぶ衣服。何を着て、どのように他者と関わっていますか?

デモに参加しながら、社会に対するメッセージを横断幕や衣服などのDIYを通して表現してきたアーティストのsuper-KIKIさん。オンラインショップSUPER-KIKI SHOPの開設に伴い、初のPOP UPイベント「PINK BOMBING」が、東京都・下北沢のボーナストラックで2024年6月7日から9日の3日間にわたって開催されました。

眩しい日差しのもと、POP UPイベントにはたくさんの来場者が。新作デザインや古着のリメイクが並ぶギャラリーで、SUPER-KIKI SHOPのTシャツやグッズを身に纏ったsuper-KIKIさんにお話を伺いました。

10年以上、路上デモなどを通して社会運動に関わってきたsuper-KIKIさんの変化や次なる視線。なんとなく着ているものに政治的なものを滑り込ませるプロジェクトは、誰かに手渡すことによってその人が生き抜くための力にもなる。走り出そうとする前に地面の土を踏み固めるような、パワフルさと安心感が同時に感じられるお話でした。

「生活に社会運動を溶け込ませるために洋服にメッセージを表現したグラフィックをプリントすることをはじめたんです」

―SUPER-KIKI SHOPの開設と今回のポップアップは、どのような思いで準備されてきましたか?

super-KIKI:私は2011年の原発事故をきっかけに、社会運動に参加するようになりました。脱原発のデモに声を上げて参加するなかで、そのような行為をする人は日本の社会で「特殊な人」として扱われがちで、あちら側とこちら側に分けられたりするような壁を感じて。それを乗り越えたいと思って、生活に社会運動を溶け込ませるために洋服にメッセージを表現したグラフィックをプリントすることをはじめたんです。直接的な運動を継続することの難しさもすごく感じていて、資本主義の社会で時間にもお金にも余裕がないなかで、それでも世の中を変えたいし、声を発信したい。自分や周りの人が持続的に声を上げるために、こういうものの力も必要なんじゃないかと思っていました。

super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形

super-KIKIさん

super-KIKI:ありがたいことに、周りの人からも欲しいという声をいただいていましたが、私はずっと神奈川に住んでいて、東京近郊のカルチャーイベントでしか物を届けられてなかったんです。地方の方や海外の方など、同じ気持ちを持って連帯できる方に物を渡せたら素晴らしいなと思ってずっとやりたかったんですが、私は機械音痴なので、ウェブコンテンツなぞ出来るはずもなく途方に暮れていて(笑)。そんな話をしていたときに、FRAGENの方が一緒にやりたいって言ってくれたんです。私は、あれができていないんじゃないか、これができていないんじゃないかっていうのを考えはじめると止まらなくなるタイプで、ちょっと歩みが遅かったんですけど、今回はFRAGENの2人(田代伶奈さん、木村瑞生さん)にたくさん背中を押していただきました。

super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形

イメージフォト:菅野恒平、店舗前ディスプレイデザイン:宮越里子

super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形

イメージフォト:菅野恒平、店舗前ディスプレイデザイン:宮越里子

super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形

会場に飾られたsuper-KIKIさんによるグラフィック

―洋服にメッセージをプリントすることは、デモに行くようになってすぐはじめたのでしょうか。

super-KIKI:「脱原発」と書いたTシャツを作ってみることはわりと初期からやっていました。社会運動を続けて行く中でフェミニズムやクィア理論に出会ったときに、自分がシスジェンダーだと言われることに違和感を感じて、「女性の運動」のような言葉を聞くと自分はそこから外れてるんじゃないかという気持ちがありました。そしてジェンダークィアやノンバイナリーという言葉に出会って、自分ももしかしたらこっちに近いのかもしれないと思ったんです。私は高校生くらいからいろんな装いを試したり作ったりするのがすごく好きだったんですけど、生まれ持った身体の形を塗り替えたりまた別の表現ができるファッションへの興味と自分の性自認が紐づいていたということに気づきました。服を着るという表現方法が自分にとってすごく大事なことだと気づいてから、クィアフェミニズムの文脈としての興味からも服を作るようになりましたね。それが2016年ごろです。

―メッセージTシャツを着たときの周囲の反応はどうでしたか?

super-KIKI:運動をしている人からは、「かっこいい」と言ってもらえたりおもしろがってもらえています。距離がある人にも、嫌なことを言われた記憶はあんまりありません。「なんかおもしろそうなものを作っている」という認識で接してくる人とはコミュニケーションが取れたりするんですよね。言葉でストレートに言うよりもデザインがあることで、クリエイティブなものを作っているということに関して興味を持ってくれる人とは、話すきっかけになっていましたね。その人がどう学んで自分の考えを変えたり変えなかったりしていくかというのは、その先の話になるかもしれないんですけど、デモで「〇〇反対」と言っているのにはこういう背景がある、ということを伝えるきっかけになっていました。

「Free PALESTINE」「DREAM」などのパッチが縫い付けられた服や、スペイン語、ハングル、クルド語、スワヒリ語、フランス語、ミャンマー語、ウクライナ語、アラビア語、日本語、広東語、台湾語、中国語で「解放」と描かれた服

―文字が書いてあるTシャツという点で見たら、珍しいものではないですよね。

super-KIKI:そうなんです。そこに政治を持ち込んでいるというか。普段なんとなく着ているものや行為に対して、ひとつ違ったスイッチやサインを入れてみる、というようなプロジェクトでもあります。意識していなかったものを意識してもらえるような。

―服自体の捉え方も変わっていきそうですよね。

super-KIKI:そうですね。自分が着ているものって、本来すごくコミュニケーションが生まれるものだと思うので、意識してみるとまた違ったやりとりができるのでは、と思います。なにげない服を着たい日にはそういう服を着たらいいし、気分によって選択できるのもいいところですよね。

ファッションを通した搾取にならないように、思想には手を抜かない

―近年SNS上のアクティビズムが活発化していますが、KIKIさんがデモなどに行くようになった2011年は、今ほどSNSが発達していなかったと思います。10年以上社会運動に関わってきたなかで、ご自身の中で運動との向き合い方の変化などはありますか?

super-KIKI:パーソナルなことで言うと、一回ちょっとバーンアウトしたことがあります。それ以降、運動を持続的にする方法、自分が途切れないようにぼちぼちやっていく方法を考えはじめました。自分の物を作る楽しさや欲望などを肯定的に受け止めて、楽しいことをやっていいじゃないか、という気持ちを意識的に社会変革の方に向けるようにしました。あと、私はX(旧Twitter)で考えを発信するのはやめちゃいましたね。極端なことがバズるような状況に疲れちゃったし、この場はわたしにはあんまり向いてないなと思って。コロナ禍が始まる少し前くらいですかね。

―ここ数年で、社会運動がファッション化しているという問題提起も増えてきました。

super-KIKI:社会運動のファッション化に関しては、いろいろなハイブランドがフェミニストのTシャツを出したり、レインボーフラッグを使っていながら、企業の姿勢としては真逆のことをしていたり、という搾取的な状況がありますよね。なので、それにはならないように、思想には手を抜きたくないです。いろいろな人に手を取ってもらい、社会問題を伝えるためのメッセージをより多くの人と共有するために売るという行為は必要なんですけど、そこで稼いだお金はちゃんと私たちが活動するための力にするし、SUPER-KIKI SHOPでも勉強会やワークショップなど社会変革に繋がるような仕組みを続けていきたいと思います。

一緒にオンラインショップを運営しているFRAGENの人たちもずっとアクティビズムに関わってきました。共に持続的な運動を続けていくために、あらためて、搾取にならない方法を意識してやっていく必要があると思っています。ただ、理想をつきつめるのは正直なところすぐには難しいんですよね。今できていないことはめちゃくちゃあると思っています。労働者が手に取れるような価格で洋服を作って売るとなると、そのTシャツを作る労働者がまた搾取されたり、環境に負荷がかかったりしてしまいます。何かしらを搾取してしまう状況から100%抜け出すことは、この資本主義社会で現状無理なんですよね。今は古着のアップサイクルをしたり、過剰在庫を利用したり、負荷の少ないオーガニックコットン100%のボディを使ってはいますが、それでも搾取や環境負荷がないわけでは決してないので、どんどんアップデートしていく必要はあるだろうし、厳しい目を向けられるのもしょうがないと思います。ただ、大量生産・大量消費のサイクルから抜けるスタイルはアイデア次第で可能だと思うので、引き続きその意識を持ってやっていきたいですね。

super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形
super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形

プラカードを持った人形やメッセージが描かれたステッカー、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)に寄付するドネーションパッチも販売

フィルターバブルの外にいる人と出会うために。「自分と思想が違う人でも、物を渡すことによってちょっとすり合わせができたりする」

―思想のようなものは手渡したりできないですが、服だと手渡せるというのがすごくいいなと思いました。

super-KIKI:物質があることで目に見えて渡せるのがおもしろいですよね。私はフィルターバブルの外にいる人と出会うことをいつも思い浮かべます。自分と思想が違う人でも、物を渡すことによってちょっとすり合わせができたりするし、受け取った人が発信する媒体になるっていうのもいいところ。1人の1人分の力が物があることによって広がって大きくなったり、1人で持っていても、その人自身が生き抜くための力になる。そういうものを作りたいと思ってやっています。

super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形
super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形
super-KIKIと考える、「政治的衣服」を通した持続的な社会運動の形

その場で服にグラフィックやメッセージをスプレーでプリントできるコーナーも

―私は4月にトルコに行ったんですが、ムスリムの女性の集まりに行ってパレスチナの話をしたら、スイカのキーホルダーをもらったんです。そんなにたくさんの話をしたわけではないけれど、そのとき手渡されたものを今もずっと持っていて。

super-KIKI:いいですねー。たくさん言葉を交わせなくても、気持ちを共有できるのがいいですよね。

―そうなんです。例えば、デモはすでに一つの目的があるからこそ、物を使って連帯をしなくてもいいかもしれないけど、生活の場だと思想を媒介する物が大きな力になるというか。

super-KIKI:そうですよね。フェミニストって言ったら嫌われるんじゃないかとか、疑心暗鬼になってしまうこともある。こういう考えを持っているとわかったら、なにか言われるんじゃないかとか。でもさりげなく「自分はこういう思想で、これを支持しています」とか「あなたのことを受け入れます」ということが表示できていたら、お互い安心できる。メッセージのある物を持つことには、1人じゃないよと目配せするような、そういう力があると思います。

super-KIKI

2011年より路上デモに参加しながら社会に対する疑問やメッセージを、ぬいぐるみでできた横断幕やネオンサイン風ステンシルのプラカード、衣服などをDIYで制作し表現する。フェミニストゲーマーのミーティングや、政治的メッセージを刷るシルクスクリーンワークショップなども展開。自身のケアと性表現の探求からinstagramでセルフィーの投稿もする。バーンアウトの経験から、日常的にいかに無理しない形で持続的に声をあげられるかを模索し、身に付けられる政治的アイテムを日々制作中。

Instagram

株式会社FRAGEN

社会のなかで、問い、行動しつづけるために、みなさんと伴走するための存在。Webキャンペーンや広報、ブランディング、イベントコーディネートが得意。主な活動フィールドは、政治、哲学、アクティビズム、カルチャー。D2021運営。映画『重力の光』配給/制作。上映会や読書会、勉強会や音楽パーティなども主宰している。Reina Tashiro / Mizuki Kimura

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政治的衣服 SUPER-KIKI SHOP。11月頭に東京都内でPOP UP開催!ないものにされないために。声を出せなくても、あなたがそこにいることが、抵抗であり意思であることを世に知らせるために。 POP UPでは、一点もの古着リメイク、定番アイテムやアートピースも。詳細はNEWSにて。

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me and youの竹中万季と野村由芽が、日々の対話や記録と記憶、課題に思っていること、新しい場所の構想などをみなさまと共有していくお便り「me and youからのmessage in a bottle」を隔週金曜日に配信しています。

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売上の一部は、パレスチナと能登半島地震の被災地に寄付します。

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