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創作・論考

趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー

スクラップしておくことで、関係なかったもの同士が繋がる瞬間がある

たったひとつの答えをすぐに導き出すのではなく、それぞれの解釈や未知の考え方に、時間をかけて出会えるように。そういった場所になることを願い、さまざまな方とつくる「創作や論考」をお届けします。

me and youの野村由芽・竹中万季がナビゲーターを務めるラジオ番組『わたしたちのスリープオーバー』のビジュアルや、me and you little magazineのカバービジュアルをコラージュでつくってくださったアーティストのneneさん。近頃はコマ撮り・コラージュを用いた実験映像もつくられています。

もともとは日記の代わりのようにつけていた趣味のコラージュづくりが本格的な作品制作へと変わっていったきっかけや、忘れたくないことを記録しているというスクラップブックについて、そしてさまざまなジャンルの本を読むのが好きだというneneさんに「わたしとあなた」をテーマにおすすめの本も教えていただきました。

「もともと切り貼りすることはごく日常的なことで、日記の代わりにもなっていた」

ーコラージュの作品制作はいつ頃から始めたのですか?

nene:物心がついたときから、好きな写真や絵を雑誌から切り取ってノートなどに貼っていました。学生時代には、友人の誕生日に好きな漫画のキャラクターをコピーして切り抜いたものをプレゼントしたり、包装紙代わりにコラージュした紙を使ったり。その頃は、それが「コラージュ」と呼ばれることもちゃんと知りませんでした。

SNSにアップして人に見てもらうようになったのは2018年頃です。趣味で作っていたコラージュを友人の(多屋)澄礼ちゃんに見せたことをきっかけに、澄礼ちゃんが「作家としてやりなよ!」と後押ししてくれて。そうして制作活動をやってみることにしました。もともと切り貼りすることはごく日常的なことで、日記の代わりにもなっていたと思います。

趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー

neneさんによる「わたしたちのスリープオーバー」のメインビジュアル

ー日記の代わりというのは、その時々のご自身の気持ちなどを記す意味合いがあるのでしょうか。

nene:特に10代から20代前半の頃は、自分の感情をぴったりと表現する言葉が見つからなかったんですよね。もやもやしているんだけどしっくりくる言葉が見つけられないときに、切り貼りに感情を乗せていた気がします。あとは、自分のなかにすごくきれいなものがあって、それを表に出したいと感じたときにもコラージュをつくっていました。

感情をコラージュに乗せる、というのは現在の作品制作でも続いていると思いますね。いただいたお仕事だと異なりますが、日常のなかでつくっている作品は、誰かに見てほしいとかなにかメッセージを伝えたいというよりは、言葉では表しづらい自分自身の複雑性が込められているように感じます。

趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー
趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー

me and youに寄せてくださったメインビジュアルと、コラージュに使った素材の一部

スクラップブックに残したり、さまざまな本を読んだりして解像度を高めることで、コラージュの素材とまるでお話するように向き合える

ー『わたしたちのスリープオーバー』のビジュアル制作の際は、番組を通して伝えたいことを共有したうえで、打ち合わせでneneさんがさまざまな資料を持ってきてくださったのを覚えています。さらにそこでのお話を持ち帰って制作してくださいましたよね。

nene:そうでしたね! そのときもスクラップブックを持って行った気がします。普段から、忘れたくないことや、行きたい場所、勉強したことなどをノートにスクラップしているんです。そうすると、記憶からこぼれ落ちずに、頭の中の引き出しに入ってくれるから。SNSのタイムラインもわーっと流れてきて、スクショで残しても覚えておけないから、印刷したものを切り貼りして貼っています。

趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー

スクラップブックは10冊以上あるそう

ーすごい、ぎっしり!

nene:今の時代、膨大な量の情報が流れてくるから、取捨選択して見極めないといけないですよね。これがいい、悪い、と勘だけで選ぶのには限界があるので、そうした意味でもスクラップして残しておくことで、関係なかったもの同士が自分のなかで繋がる瞬間があります。

ーneneさんは本もたくさん読まれていますよね。

nene:漫画も小説も哲学の本も歴史の本も、ジャンルを問わず読んでいるんですが、それは作品のためというよりかは、自分のなかの考えをまとめるのに正しい知識を得ることが必要であることや、単純に好きだからという理由が大きいですね。さまざまな文脈で『わたしたちのスリープオーバー』ともつながっている部分があるよね、というようなお話を打ち合わせでしたのを覚えています。

ーさまざまなジャンルの本を読むのは、インスピレーションの源としてなのでしょうか。

nene:インスピレーションではなく、あくまで物事の解像度を高めるために取り入れているというイメージです。そのうえで、どういう背景で、どんな趣旨で、誰に、なにを伝えたいかという、me and youのお二人の思いや番組のコンセプトをまずは自分のなかに一回取り入れました。そうすることで、コラージュの素材とまるでお話するように向き合えて、作品をつくっていけるようになるんです。

趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー

古本屋でこつこつ集めているという古本の一部。宝石の一部はme and youのメインビジュアルのコラージュ作品の一部でも使われている

ー制作してくださったなかで、neneさんご自身は、性について話し始めることについてどのように考えましたか?

nene:もちろん人によると思いますが、私の場合は友人と集まったときにプライベートな話になったりすることが多いかもしれません。学生の頃から、女の子同士でお泊まりをするときなどに性の話をしたり、わたしたちの身体についての悩みを共有したり。「今日は話すぞ」と心に決めて性の話をし始める人もいれば、気軽に話せる人もいると思うのですが、日本のカルチャー全体では性という人間と切り離せないものをタブー化してきた部分があるなかで、『わたしたちのスリープオーバー』は日常の延長線上で性にまつわる話をしているので、それに救われる人がいるんじゃないのかなと思います。

趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー
趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー
趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー

趣味で収集しているガラスでできたオブジェや、蝶の標本

宮崎夏次系さん、江國香織さん、小川洋子さん。「わたしとあなた」から浮かんだ3つの作品

ーme and youでは、「わたしとあなた」ということについて考えていきたいと思っているのですが、なにかぴったりの作品があれば教えていただきたいです。

nene:「わたしとあなた」で思いつくのは……一つは、宮崎夏次系さんの『あなたはブンちゃんの恋』。好きな人ができたけれど相手にも好きな人がいて、自分を受け入れてもらえないということに直面したときに、人はどんな風に自分の感情と向き合うのか、という葛藤が生と死を絡めて描かれています。

もう一つは、江國香織さんの『流しのしたの骨』。一つの家族にフォーカスを当てた作品で、家族だとしても結局は他人同士だからわかりあえない部分が出てくるんだけれど、わかりあえないなかでも愛してるし、生活を共にしている、そうやってコミュニティを形成している、というお話です。

最後は、小川洋子さんの『ことり』。これは兄弟の話で、ある日人間の言葉が喋れなくなって小鳥にだけ通じるポーポー語を喋るようになったお兄ちゃんと、その弟である主人公を描いています。一見するとお兄ちゃんは変わってしまったけど、主人公の男の子から見たらなにも変わっていなくて。わたしはこの作品を読んで、次の日に目がぱんぱんに腫れるほど泣いてしまいました。

趣味の「切り貼り」から実験映像制作へ。コラージュ作家neneインタビュー

左から、江國香織さんの『流しのしたの骨』(新潮社/1999年)、宮崎夏次系さんの『あなたはブンちゃんの恋』(講談社/2020年)、小川洋子さんの『ことり』(朝日新聞出版/2012年)。

自分の心象風景を表現しつつ、誰かの心に残るような作品をつくり続けられたら

ー現在neneさんは映画学校に通い、映像を制作されているそうですが、コラージュとの共通点や相違点、今感じていることなどを伺えればと思います。

nene:ずっと自分の頭のなかにあるものを外に出したいという意欲からコラージュをつくってきましたが、頭のなかではもともと動いているんですよね。だから自然と映像をやりたいと思うようになって、今、学びながらつくっているところです。そしてコラージュと同じように、どんな人に届けたいかとか、どういうふうに観てもらいたいかという意識は薄くて、自身を表現するもののひとつとしてつくっています。

neneさんが監督した映像作品『rabbit』

nene:これまでは人に見てもらうという意識が本当になくて、自分の中のものをコラージュや映像で出せれば満足していたので、つくった作品もすぐに捨ててしまっていたんです。自分ではコラージュや映像はあくまで感情を表現するツールであり、作品は副産物という意識でした。でもSNSを通して見てくれてる方々がいて、作品のあり方について今後どう向き合うか悩んでいたとき、同じく芸術と本気で向き合っている人から「これから残していくようにして、自分の作品をどんどん愛していけばいいよ」と言ってもらって、すごく気持ちがラクになったんです。それからすべて残すようになりました。もう作品は我が子です(笑)。これからは、自分の心象風景を表現しつつ、誰かの心に残るような作品をつくり続けられたらと思っています。

(取材:2023年2月10日)

nene

現実に潜む、一瞬の幻をコラージュで表現するアーティストとして2018年から活動をスタート。枠にとらわれない、イマジネーション溢れる作品を世に出すべく、zine・実験映像・写真・造形など様々な手法を取り入れ活動中。現在はアーティストへの作品提供やプロダクトなどにも力を入れている。

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