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同じ日の日記

わたしのモーニングルーティーン/みさこみさこ

今の年齢になって改めてアイデンティティが分からなくなっている状況で

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2023年2月は、2023年2日28日(火)の日記を集めました。福岡を拠点にアートや暮らしにまつわるデザイン・編集・写真のお仕事をしながら、ジェンダーや政治についてSNSを通じて発信をしているみさこみさこさんの日記です。

朝、目が覚めて洗面所で顔を洗う。パジャマの胸ポケットに入れたiPhoneからはポッドキャストの喋り声が聞こえてくる。

◯スキンケア
美容液→化粧水→乳液

◯メイク
日焼け止め下地→マスクで隠れない部分にリキッドファンデーション→目元にコンシーラー→チークの順番に載せていく。まつげにビューラーを当てる。マスカラは気恥ずかしくて使っていない。アイライナーも奥二重に吸い込まれてしまって難しいので使わない。上まぶたにオレンジとベージュのシャドウを薄く入れて、唇に茶系のリップを塗る。

◯髪
ヘアオイルを全体に、毛先に水溶性グリースをつける。

◯服
首元がフリルになっているタートルネックのインナーの上に、4XLサイズの茶色い古着のワンピースを着る(周りの人からは僧侶みたいですねと言われる)。まだ寒いのでベージュのウールのタイツを、その上から蛍光グリーンのソックスとジャーマントレーナーを履く。透明なガラスのイヤーカフを付ける。東野翠れんさんの個展で買ったショルダーバッグには遊園地の写真がプリントされている。

今日は通院の3回目。臨床心理士の検査を受ける日だった。いくつかの心理テストのあとに出てきたのは、6年前に別の病院でも受けた「ロールシャッハテスト」。厚紙に印刷された黒と朱色のインクの染みを見ながら、「これはコウモリですね」とか「ゴーストライダー(MARVELのオカルト系スーパーヒーロー)に見えます」などと連想したものを挙げていく。

他のテストもだけど、入院を勧められるぐらいメンタルが落ちていた当時と違って今はかなり落ち着いてると思うし、いい結果が出るといいな。何より、「今のあなたは平常心じゃないのでご希望の対応はできません」と判断されてしまうのは困る。今回の問題については昨年訪れた別の病院では受け入れてもらえず、ここは二軒目なのだ。「疲れてると思うから、残りの検査は次回にしましょう」と言われて、今日はこれで終わりかな……と思ったら、診察室から「みさこさ〜んどうぞ〜」という男性の声。医師との面談が始まった。

少しでもこちらのやる気を見せるためにワンピースを着て来てみたけど、それには一切触れずに「その後、どうですか?」と訊かれて肩透かしを食う。改めて自分が求めている対応について話すと、既婚者で未成年の子どもがいるあなたの状況では希望は叶いませんよと前回と同じことを言われたので「特例法についても最高裁で争っているところだし、これから状況が変わる可能性は十分にあります」と答えると「まあ、確かにそうなるかもしれませんね」とあっさりした返答が返ってきた。このやり取り、前回もやったけど覚えてないんだろうか。

この人と話していると、これは本人は意識してないけど差別だよな? と思うような発言が飛び出すことがあるけど、また別の病院を探すのは大変だし、とりあえず最近の本やネット記事から知った新しい情報を提供しながら、相手の意識が変わってくれるのを狙っている。その後も雑談が続き、これは何の時間なんだろう? と思っていたら「まあ、今日はこんなところですかね」と言われて面談終了。前向きに解釈すると、ちゃんと診断しましたという既成事実を作るために診断ごっこをしてくれているのかもしれない。次回は2週間後だ。

病院の向かいにあるアンテナショップで旬の菊芋、不知火(デコポン)と、入り口で350円で売られていた桜の枝を買う。部屋に枝物を活けるような生活にずっと縁が無かったのだけど、ここ数年でようやく付き合い方が分かってきた。茶色でごつごつとした枝の薄い表皮が、水に活けるといつの間にかつるっとした緑色の質感になって、蕾が開いていく過程を見るのが楽しい。

4月の展示に向けて、他人の家の窓ガラスや、ビニール越しに見えるオブジェクトの写真を撮っている。自分が今の年齢になって改めてアイデンティティが分からなくなっている状況で、薄い膜を隔てた「外から見えるもの/内側にあるもの」のあり方についてシャッターを押しながら考えているところ。実際に展示して、来てくれた人と話す中で見えるものもあるかもしれない。

お昼にうどんを食べて仕事場に戻ると、子どもから「レイドしたい」とメールが届いていたので、オンラインでつないで少しだけポケモンで遊ぶ。ポケモンの主人公は性別の設定が無いのが良い。私はピンク色のショートカット、子どもは紫のポニーテールだ。

私は小学生のころからかわいいものが大好きで、自分自身もかわいくてファンシーな存在だと思っていた。しかし、中学校に入ると制服から始まる男女の扱いの違いや、あからさまな暴力(教師も生徒も)を目の当たりにして絶望し、階段の踊り場で一人で泣いていた。これまでの人生を改めて振り返ると、その頃の感覚は今もずっと続いている気がする。ここ数年のコロナ禍の中で一人の時間を持てたことや、新しい友人との出会いを通じてようやくこの違和感に気付くことができたけど、かわいいものが大好きな子どもには、自分のような苦しみを少しでも感じずに育ってほしいと思う。

みさこみさこ

福岡在住のグラフィックデザイナー。アート、暮らしに関わるデザインワークに携わる一方、SNSを中心にジェンダーや政治について考えたり書いたりしている。Sakumag Collective『We Act! #3 男性特権について話そう』では書籍のデザインを担当。

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