夕方、池袋のコワーキングスペースを出て、東武百貨店へ向かった。今夜は歌人の平岡直子さんの現代歌人協会賞授賞式の2次会に参加するため、お祝いの品を選びに向かったのだ。
花束は他の方々がすでに用意されているだろうと思い、某コスメブランドのロールオン香水を選ぶ。気分を切り替えるのにぴったりで、自分も以前愛用していたことがある。香りがソフトなので、ちょっとしたギフトにも最適だろう。
会場となる神保町のイタリアンのお店へ向かう。移動中、平岡直子さんの受賞作『みじかい髪も長い髪も炎』(本阿弥書店)を改めて開く。
1984年生まれの平岡さんの歌が放出するのは、一瞬の輝きを信じる強さと、他者への希求、ときに読み手を突き放す鋭さだ。本書には「死」の気配も漂うが、それは決して「終わり」を意味しない。むしろ読者の想像を掻き立て、再生に導く力強さにかわる。
<ほんとうに夜だ 何度も振り返りながら走っている女の子>
闇を恐れない。むしろ無邪気に確かめることで「恐れ」を振り切るかのように、少女は走り続ける。
会場に到着すると、授賞式会場から流れ着いた面々がちょうど店内に集まりつつあった。参加者は歌人を中心に大体20名ほどのようだ。久々の大人数の飲み会で、なぜか少し緊張する。
全員立ち往生して席が決まらなかったり、飲み物や皿を回したりがぎこちないのは、やっぱりコロナ禍に入ったこの2年、飲み会の機会がなかったからだろうか。
席は自然と知人同士のグループで固まっていく。私が腰かけたのは店内右奥のスペース。大学時代に所属していた「早稲田短歌会」(通称:わせたん)の同期やOBOGが中心だ。受賞者である平岡さんは、私が大学1年でわせたんに入会した頃からの先輩で、今回もその繋がりで二次会に呼んでいただいたのだ。
右隣に歌人の井上法子さん、佐伯紺さん、向かいの席に、歌人の吉田隼人さん、永井亘さん、わせたん同期の佐クマサトシさん、平英之さん。さながらOBOG混合の同窓会の体をなした。
補足すると、「早稲田短歌会」の活動の中心は、互いの短歌を合評する歌会である。春と夏に他大学との合同合宿を開いて旅館で勉強会をしたり、吟行会に出かけたり、飲み会やバーベキューもしたり。私が所属していた2010年代当時は、意外とアクティブ(?)なサークルだった。
とはいえ、互いの作品を批評し合う緊張感ゆえなのか、良くも悪くも馴れ合いをよしとしない雰囲気が醸成されている……というのが私から見た「わせたん」の印象である。
乾杯の挨拶は、歌人の東直子さんが務めた。主役の平岡さんは各テーブルを回っていて、しばらくお忙しそうで、結果的にわせたんのメンバーで話すことになった。
独特の沈黙(みんな誰かが話し出すのを待っているのだ)を挟みながら、ぽつぽつと話す。反応が薄い。常々思っていたが、仲がいいのか悪いのかよくわからない集団である。そうはいっても、私は久々のこの沈黙が懐かしかった。いずれにせよ、店が騒がしすぎて、会話の何割かはよく聞き取れない。
最近の歌壇のニュースにあまり追いつけていなかった私は、吉田さんや平さんから詳しく教えてもらってありがたかった。中には思わず爆笑してしまうような話もあったのだが、内輪ノリすぎるので割愛。
特に、吉田隼人さんが後輩にあたる永井さんや佐クマさんと話し込む様子は、10年前の早稲田の風景(夜、大学近くのサイゼリヤで同じように話し込んでいた)を見ているようでとても懐かしくなった。
受賞者の平岡直子さんは、白地に濃いピンクの振袖がとてもお似合いで、袖に散った花柄が愛らしかった。無事にお祝いも渡すことができた。次々に贈り物を手渡された平岡さんは、後日のメールで、「ありがたすぎて生前葬かと思いました」と仰っていた。
佐伯紺さんの特技はネイル。今日も受賞作の装丁とお揃いのデザインのネイルで決めていた。井上法子さんはこれから夜勤なの、とお話しされていて、変わらずお忙しそう。自分も数年前まで兼業だったので、執筆の良いサイクルを見つけるのにかなり苦労したことを思い出す。