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同じ日の日記

触れることのできるしあわせ/伊波英里

沖縄の記憶、婚姻制度への違和感と息子の名前、仕事と育児、6回目の授乳

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2022年6月は、2022年6月23日(木)の日記を集めました。アートディレクター/グラフィックアーティストとして活動する、今年2月に子どもが生まれたばかりだという伊波英里さんの日記です。

午前3時半、授乳のため起床。
2月に子どもが生まれてからは、授乳サイクルの中に生活がある。
おっぱいを必死に吸う息子の姿は、毎日新鮮に愛おしい。

授乳しながらスマホでニュースを見る。今日は沖縄慰霊の日。
父は沖縄出身で、子どもの頃は夏休みに沖縄のおじいの家に遊びに行くのが楽しみだった。
おじいの家は嘉手納にある。嘉手納基地で働いていたおじいは米軍兵の人たちからJimmyという愛称で呼ばれていたそうだ。
初めて基地の中に連れて行ってもらった時、映画で見た外国の景色が広がっていて興奮したのを覚えている。おじいの家のベランダから見る基地の滑走路の灯りが綺麗で、湿気の多い夜風に吹かれながらぼーっと眺めていた記憶もある。
私の中の沖縄には基地が当たり前にあった。

今年は本土復帰50周年でもある。「俺はパスポートで上京したんだぞ」と笑った父を思い出す。
私の知る沖縄の人たちは明るい。親戚はお酒が大好きで、飲むとご機嫌に歌って踊ったりする。私にもその血が流れていると感じる。
私が生まれたのは父が上京した後のことで、沖縄には住んだことがないけれど、自分のルーツの一部でもある沖縄は大好きで特別な場所だ。
ただ、沖縄に行くといつも感じる、気配みたいなものがある。
エメラルドブルーの海やパワースポットだと教えてもらった岬、エイサーなど、一見するとポジティブに映るこれらに感じるわずかな影。その正体について、基地について、戦争について、沖縄の抱える問題について、おじいや父はどう感じていたのか話したかった。

午後3時、息子とおしゃべりの時間。
「あうー」とか「ほげー」と話す息子を、自作の歌で笑わせることが楽しい。
最近は声を出して笑うようになって、宇宙人のようだった新生児の頃から比べると、ずいぶんと人間らしくなった。
息子の笑顔を見るだけで細胞が喜ぶようなみずみずしい感覚になる。触れることのできるしあわせが目の前にある。

現状の婚姻制度に違和感があり、選択性夫婦別姓が認められるまでは事実婚という形をとったので、息子の名字は私と同じ「伊波」だ。性別は本人が決められる、または決めなくてもよいように、性別を感じさせない名前をつけた。
名前に「陽」という漢字が入るので、小学校からの友人に「波に陽なんて、沖縄を感じるね」と言われた。希望した無痛分娩が時間外で叶わず、陣痛に耐えるために太陽にキラキラと反射する海を思い浮かべて意識をそらしていたことを思い出した。

コロナが始まってから沖縄には行っていない。
家族でフクギ並木を歩いて海で泳ぎ、夜は砂浜で寝転び、波の音を聞きながら満天の星空を
見ることが今から楽しみだ。
息子と一緒に沖縄を知っていきたい。

午後8時、息子を寝かしつけてから仕事。
パートナーが育児や家事に積極的に参加してくれていることもあって、産後58日で非常勤講師の仕事に復帰し、来月から始まる制作の仕事も引き受けた。いつかくるだろうと身構えていた、仕事と育児の本格的な両立。
仕事は私の一部であり、お母さんをするのは楽しい。どちらも大切。

午後11時半、6回目の授乳。
おっぱいを飲みながら腕の中で寝てしまう息子。1日に何度も名前を呼んで「大好きだよ」と抱きしめる。人を愛するということは、愛されている自信を相手に与えることだと思う。だから何度でも言いたい。

この日記がネットの海をボトルメールのように漂って、いつか息子にも届くのだろうか。
生まれてきてくれてありがとう。あなたがそこにいてくれるだけで、お母さんはしあわせです。

伊波英里

創形美術学校卒業後、ニューヨーク滞在を経て、アートディレクター/グラフィックアーティストとしての活動を開始。 グラフィックデザインに軸足を置きつつ、映像やプロダクト、空間演出など、表現媒体を問わず多岐に渡り活動している。

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